「残酷な神が支配する」ネタバレ感想~義父の性的虐待、義兄との恋愛BLマンガ、ではない名作

2021年05月04日
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連載当時に雑誌で読んでいて、その後単行本で揃えていたけど引越しの時手放した、萩尾望都の名作「残酷な神が支配する」が、楽天KOBOで期間限定1~3巻無料になっていたため、ゴールデンウィークの初めにダウンロードしました。


残酷な神が支配する(1)【期間限定 無料お試し版】【電子書籍】[ 萩尾望都 ]

夜に読み始めたら止まらなくなり、そのまま一気に4~10巻を購入し、朝方までに読んでしまったけど…

いやぁもう、本当にすごい名作。

第1回手塚治虫文化賞優秀賞を受賞していますが、そりゃそうだ。

ストーリーのテーマがあまりにも残酷で過激なため、実写化もアニメ化もされないままだろうし、若い人は読む機会が無いかもしれない。

連載当時はまだ「BL」なんてカテゴリが無い頃で、でも男性同士の恋愛が描かれているのもあって、まだ若かった私はドキドキしながら読んでいました。

でもこの年齢になってまた改めて読むと、萩尾望都独特の芸術的な描写と、テーマの重さと、愛情の交流と、精神的トラウマの苦しみにもがきながらも成長していく登場人物達の解釈が少し変わってきた気がします。

以前Twitterで若い子達が「商業BL派と二次創作BL派」に分かれて対立していましたが、私は最近のBLも二次創作もイマイチよく分からないけど、とりあえず「マンガ好きなら読んで!」と言いたくなりますね。

萩尾望都の作品は「ポーの一族」「トーマの心臓」「11人いる」「イグアナの娘」とたくさんあり、今も執筆されていて、どれも耽美だったり切なかったり苦しかったり笑えたりするけど、この作品は「義父から少年が性的虐待を受ける」というところから始まるのが本当に辛いです。


ボストン育ちの少年ジェルミは、8歳の頃に父を亡くし、アンティークショップで働く母のサンドラと2人暮らしの普通の高校生。

夏には彼女のべべと一線を越えよう、とワクワクドキドキしていた時に、サンドラがイギリス人の富豪グレッグと出会って恋をします。

ジェルミの父が持っていた日本刀の鍔と、グレッグの亡き妻が持っていた鍔が同じセットの物だと分かり、それがキッカケで2人は出会ったのですが、優しく裕福なグレッグにサンドラは夢中。

出会った当初、攻撃的なヒステリックさを見せたグレッグでしたが、その後はサンドラを賛美し、2人は一気に再婚へと話を進めていきます。

が、グレッグの狙いはジェルミでした。

サンドラの幸福と精神的な弱さを盾に、グレッグはジェルミに性的関係を強要してきます。

ジェルミがグレッグを拒絶すると、その見せしめにグレッグはサンドラに破局を告げ、ショックを受けたサンドラはガスコンロで中毒自殺を図る始末。

幼少期に父が亡くなった後、新たな恋人に去られた時、切った血塗れの手首をジェルミに見せながら泣きつく等、サンドラの弱さを理解していたジェルミは、母の為にサンドラと共にグレッグの住むイギリスの森リンフォレストにある豪邸に移住を決めました。

グレッグにはイアン(19歳)とマット(14歳)という2人の息子がいて、イアンは母親のリリア似の美男子な上にボクシングも上手く、聡明で軽薄なモテ男。



グレッグはイアンのことは可愛がっていましたが、一方で自分にもリリアにも似ていないマットは邪険にしていました。

卑屈な引きこもりのマットは、実はグレッグから

「リリアが浮気して出来た子供だ」

とずっと疑惑を持たれています。

元々ロシア人のリリアには婚約者の従兄弟がいたけれど、グレッグは一目惚れしたリリアを奪って結婚。

しかしマットを身籠る前に婚約者と再会していて、グレッグはリリアの浮気を疑って責め続け、目の前で首を吊らせていたのです。

亡くなる直前に産み落としたのがマット。

鑑定でグレッグの実子だと判定もしているけれども、グレッグはマットを毛嫌いし続けていたのです。

ジェルミが館に移り住んで以降、グレッグは毎週末ジェルミの部屋に来ては関係を迫りました。

イアンと同じ全寮制の学校に入学し、帰省をしないで過ごそうとしたジェルミの元にもやってきて、その抵抗を責めて鞭で打つ等サディスティックなプレイにエスカレートしてしまいます。


残酷な神が支配する(4)【電子書籍】[ 萩尾望都 ]

肉体的にも精神的にも耐えられず、でもサンドラを見捨てられないジェルミは、グレッグの新車に細工をして事故に見せかけた殺人を計画し、実行しました。

細工をした直後にイアンとすれ違い、そして翌朝グレッグの乗った車はカーブで事故を起こして炎上。

ここまではジェルミの計画通りでしたが、しかしその車にサンドラも乗車していて、サンドラは焼死体となって発見されます。

またグレッグも意識が戻らないまま重体となり、その後亡くなりました。

車はメーカーが欠陥品だったと発表し、事故は事件ではなくメーカーの責任となって調査終了。

しかしイアンはジェルミの犯行を疑い、告白を迫ります。

ずっと否認していたジェルミでしたが、イアンの強要に耐えきれず、ついにはイアンのことも殺害しようと考えました。

その準備でサンドラが服用していた睡眠薬を使用しようと彼女の部屋へ行った際、サンドラの日記を発見。

そこにはサンドラがべべからの手紙を隠していただけでなく、グレッグとジェルミの関係に気付いていたかのような記述がありました。

知っていたのに、何もしてくれなかった母親。


残酷な神が支配する(3)【電子書籍】[ 萩尾望都 ]

絶望したジェルミはイアンに真実を告げ、池に身を投げますが、イアンは助け出しました。
最初はジェルミの話を信じなかったイアンですが、その後ジェルミの話通りのロープ、お面が見つかり、また伯母のナターシャが鞭で打たれた写真、虐待を受けたジェルミの写真も見つけ、激しいショックを受けます。

またジェルミと父の関係は、マットもナターシャも使用人も気付いていて、そしてジェルミが出していた苦痛のサインを全て見逃していたことを知りました。

ここからイアンとジェルミの、愛か憎しみか分からない肉体関係と救済が始まります。

自分が母を死なせたこと、グレッグから受けた虐待に苦しみ、精神的に不安定なジェルミ。

ジェルミを責めながらも欲し、自分だけのモノにしたいという欲望を感じながらも、それはまるで父グレッグと同じことをしているのではないかと悩むイアン。

プロのカウンセラー、調査員、ジェルミがカウンセリングで出会った口のきけない少女バレンタイン、イアンの恋人のナディア、ナディアの妹のマージョリー、バレンタインの双子であり元恋人のエリック等、様々な人と関わり合いながら、あの事故から3年過ぎるところまで描かれるのですが、各キャラクターそれぞれが虐待や愛や生きるということに傷付き、悩み苦しみ、でも寄り添いあっていて、とても簡単にまとめきれません。

前半パートはジェルミがメインですが、後半はイアンがメインとなっていて、まだ若い彼が悩みながらもジェルミを欲し、優しく彼を導こうとし、時に楽観的に愛を語り…

ジェルミと関わり合うことで、イアンは自身が幼少期に「母親に見捨てられた」と傷付いていたことも思い出し、またグレッグ自身も実の両親との関係が良くなかったことを知ります。

萩尾望都の作品には、親子間の隔絶が描かれることが多く、それは本人の親との確執が元になっていると言われていますが、それにしてもこの物語は激しいですね。

それでも最後は、明るい未来を予感させるものとなっています。

イアンは大学に進学し、ジェルミは得意な美術方面の勉強をしながら、でもあの事件のあった年末から年始は2人で過ごす。

それを2人は楽しみにしている部分もある。


残酷な神が支配する(10)【電子書籍】[ 萩尾望都 ]


10代、20代にこの作品を読んでいた私は、こういう激しい「愛」というものに憧れていた部分があります。

実際にはこんな漫画のような愛はそうそう無いし、イアンや他のキャラクターのようにジェルミを支えるような存在は私にはいないなぁ、なんて、思ったりしました。

あくまでもイアンとジェルミが美形だから成り立つ話だよなぁ、なんて思ったりもします。

今のBLもそれぞれが悩みとかトラウマがあったり、癒やし合ったり、な設定があるものも多いのでしょうが、ここまで綿密な重いストーリーは昨今ではちょっと若い子に受けないかもしれませんね。

でも、この重さが良い。

うーん、やっぱり実写化は無理でも、アニメ化とかしないかなぁ。

毒親って結構今テーマにしているの多いし。

しかし若い頃はこの作品、とにかくグレッグの残虐さと、イアンの愛の部分だけ強烈に記憶に残っていたけれど、今読んで改めて、サンドラの酷さが全然理解できていなかったことに気付きました。

きちんと後半に描かれていて、ジェルミは共依存状態を迫っていたサンドラへの怒りをぶちまけていたのに。

当時の私には、この息子に自身の弱さを見せ、愛し、自身の幸福のために犠牲者として差し出す女と母であるサンドラが理解できなかったというか、意味が分からないままスルーしていたのだと思います。

養父から虐待を受ける子供の話は現実でも物語でもたくさんあり、その都度母親は女か親かで揺れるものだけど、そういうモノを他にそんなに読んだことがなかったからなのかなぁ。

グレッグもサンドラも親から呪いをかけられていて、それが子供たちにも伝播していく…

こういう子供を守るべき大人の不安定さ、負の連鎖は、今SNSでもよく取り上げられているテーマだと思います。

さすがにグレッグのSMは…何でそうなった!?と本当に納得いかないのですが…

そういう犠牲者が誰かいないと、自身の精神の安定を保てないっていうのは、程度の差こそあれ日常生活で目にする部分があります。

常に社内の誰かを毛嫌いしてパワハラの対象としている上司、何人も見てきてるし…

この物語の救いは、何だかんだ言ってもイアンは辛い幼少期を過ごしていない、という部分にあるのかなと思いました。

母親のリリアが自分を捨てて命を絶った、ということへのショックはありましたが、でも伯母のナターシャから愛情をもらい、父親からも愛され、女性は皆んな自分を好きになってくれていて…

だからこそ、思い通りにならないジェルミに腹を立て、服従させようとしても、でもそれは「いけないことだ」とキチンと理性を保つことができる。

ジェルミが「誰にも相談できずに苦しんでいた」という事実を知り、受け止めることが出来るイアンは、ある意味憧れます。

そういう精神的な部分にあまり目を向けず、肉体的な部分だけ若い頃の私は見ていたのかな。

ゴールデンウィークはそんな自身の心情の変化についても、考えさせられました。

まだ未読の方は、お時間があるとき、ぜひ。
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