都内在住40代独身女性ならではの、オタ活&仕事のストレス&アンチエイジングのことなど

父親・年長男が同性愛被害者になったら~アリ・アスター卒業制作「The Strange Thing About the Johnsons」ネタバレ感想

私は今までアリ・アスター監督を存じ上げなかったのですが、Xで彼の卒業制作「The Strange Thing About the Johnsons」がすごい!と紹介されていたので、英語字幕を付けながら観てみました。

ちなみに動画には年齢制限がかかっているため、YouTubeでしか再生は出来ません。



有志が日本語字幕付きバージョンも作っているそうですが、一応英語勉強中の身としては日本語字幕は付けない方が良いかなと思って観たので、100%理解出来ていない部分はあります。

聞き取りきれない、知らない単語も出てきたし、自動字幕では拾えないセリフ、間違った単語に置き換えられてしまう部分もありましたが、でも内容自体は基本的に英語が聞き取れなくても理解出来る、と思います。

ストーリーは…

黒人のジョンソン一家は、そこそこお金持ちの家庭。

父親のシドニーは有名な詩人で、優しくて繊細な人として知られ、敬愛される人物。

母親のジョアンは、家族に尽くす専業主婦で、パーティーでは皆んなに気配りする完璧主義者。

息子のイザヤは素敵な女性と結婚したばかり。カリスマ性のある男であり、両親に愛されて育った理想的な子供…のはずが…

冒頭、12歳のイザヤが自室のベッドで◯慰行為をしている時、父のシドニーは悪気無く部屋に入ってしまいます。

慌てる息子に謝りながら一旦部屋を出たシドニーは、優しい声で「入っていいかい?」と言って返事を待ってからまた入室し、息子に「何も見てないよ」とか「皆んなやってることなんだから、気にしなくて良いよ」とか「タブーって分かるかい?タブーを犯してはいけないけど、これはタブーじゃない。こうして話し合えてるからね」と慰めながら、繰り返し謝りました。

そんな父にイザヤは「お父さんも、してる?」と聞きます。

それに対して少し困惑しながら、シドニーは「皆んながやってる、普通のことなんだよ」と答え、ハッキリと自分もやってるとは言いませんでした。

息子と和解出来た、と思ってシドニーが部屋を去ろうとすると、イザヤは「お父さん、愛してる」と言い、シドニーも息子に「愛してるよ」と返して出ていくのですが、その後イザヤはオカズにしていた父親らしき男性の写真を見つめていました。

それから10年近く経ち、イザヤは素敵な女性と結婚式の日を迎えました。

しかし…記念撮影の最中、イザヤは父の背中に手を這わせます。

そしてパーティーの最中、夫と息子の姿が見当たらないジョアンが客人達に笑顔で挨拶しながら探し回っていると、物置小屋からベルトがしなるような音が聞こえてきました。

壁の穴から中を覗くと、そこには抱き合った後に父のズボンのファスナーを乱暴に下ろす息子と、その状況に茫然自失な表情を浮かべながら立ち尽くす夫が。

しかし、ジョアンは慌てて壁に背を向け、何とか気を落ち着けて笑顔を作ろうとします。

新婚息子夫婦を迎えた夕食の日も、ジョアンはお手伝いしようかと声をかける嫁に

「私1人で出来るから大丈夫よ」

と笑顔で言い、皆んなに食事を出しました。

父より先に息子に料理を手渡そうとする母に、イザヤは不満気。

それでもお互いに思い遣りの声を掛け合い、手を握り合う両親を嫉妬に満ちた目で見ながら、イザヤはテーブルの下で父の足に自分の足をそっと伸ばして挑発を仕掛けていました。

この息子との関係に追い詰められていたシドニーは、息子に隠れながら2人の間に起きたことを書いていきます。

一度はモニターを見られそうになって慌てて消そうとしていましたが、それでも

「あの時自分は息子にどうすれば良かったんだろう?

これは2人の罪だ」


という告白を300ページに渡る量で書き、「Cocoon man」(繭に包むように大事にされている男)というタイトルを付けて出力し、それを妻の入浴中にベッドの枕の下に置いて、妻に打ち明けようとしました。

そこに別のトイレが壊れているから、と両親の部屋にイザヤが入ってきてしまい、そのプリントを見つけてしまいます。

自室で息子が来ることに怯えるシドニー。

そんな父にイザヤは「何これ?自伝?俺はお父さんを愛してるよ。でもコレはその気持ちを乱す。コレは燃やすから。またこんなの書いたらどうなるかな?脅しておくからね」と言いました。

後日、新居でホームパーティーをしたイザヤは、客人が帰った後にグラスを壁に投げ付けます。

そして、嫁にそれを片付けるように、その間にちょっと実家に行ってくるから、と告げました。

そんなこととは知らないシドニーは、ゆっくりとバスタブの中でヘッドフォンをしながら朗読のようなものを聞いていました。

父を探して浴室に入ろうとしたイザヤは、鍵をかけて返事をしないことに怒り、浴室のドアを蹴り開けました。

そして恐怖する父にそのまま無理矢理暴行します。

その物音や夫の悲鳴に気付いた妻は、観ていた出産シーンの映像の音声を上げて、見て見ぬふりをしました。

シドニーは再度出力した冊子を床下に隠していましたが、やはり耐え切れなくなって冊子を取り出し、外に持ち出そうとします。

階段を降りていると、イザヤが

「何を持ってるの?新作?」

と話しかけてきました。

「ただ出掛けるだけだよ…」

と取り繕おうとする父に怒り出すイザヤから逃げるように、シドニーは急いで自宅から駆け出て、そしてそのままイザヤの目の前で車に轢かれてしまいました。

父を抱き起こして泣き叫ぶイザヤと、慌てて出てきて悲鳴をあげる母。

葬儀の日には、虚な表情のジョアンに皆んなが憐れみと追悼の言葉を告げていました。

その後、父の写真を見ながら同じ遺品の服を着て鏡を見ている息子に、母は

「あのプロムの日、何があったの?」

と質問します。

「何のこと?そんな10年も前のこと覚えてないよ」

ととぼけるイザヤに

「あの日、お父さんは様子が変だった。私の目も見なかった。

あなた達の間に何があったか知ってるのよ!」


と徐々に怒りを見せる母に向かって、イザヤは

「俺はアンタより父さんを愛してた!」

とブチ切れました。

そして母は凶器を息子に向けます。

激昂したイザヤは、母をそのまま暖炉の火の中にぶち込もうとしました。

必死に抵抗したジョアンは、何とか火かき棒に手を伸ばし、それで殴り返した後に何度も何度もイザヤにその火かき棒を突き刺し、号泣。

という、何とも重い上に、センシティブな30分の物語でした。
そもそも、父親が息子からこんな暴行を受ける設定は私は見たことがない、かな。

シドニーは本当に良いお父さんだったはず。

自宅には優秀そうな幼少期のイザヤの写真も飾られていて、側から見たら本当に幸せそうな家族なのに、こんな悲劇が起こっているなんて…

ちなみに、OBはアリ・アスター監督の作品は全部観ていて、変態な感じが大好きとのことですが、この卒業制作は知らなかったということでリンクを送りました。

ただ…息子が2人いるOBには、この設定はかなりヘビーなのでは…

アリ・アスター監督の作品は近日中に観てみようと思いますが、卒業制作でこのクオリティはすごいなと思いました。

今は彼の新作「ボーはおそれている」が話題なようですね。





役者さん達の演技も良いし、手のアップでシドニーの絶望感、壁に隠れて姿が見えないけど声だけ聞こえてくることで伝わるイザヤの怖さ、はホラー的です。

私も結構猟奇ものとか読んだり見たりしてきたけど、異様な息子に悩む父親の話はあっても、暴れるとかではなく、愛故に父親を陵辱する設定は新鮮、かつ、実際にこういうこともあるかも?と考えたことがなかった自分に驚きました。

愛を言葉と笑顔で伝えようとする父親と、愛を肉欲で伝える息子の対比が、ある意味秀逸。

こういう息子って、テンプレだと両親の離婚とか、親子関係の不和で起こるってのがテンプレだったし。

生まれつきヤバイ精神異常って設定もあるけど…

息子には「タブー」についてかつて説明していたけど、それを別の方向に受け取られてしまった、というあたりも、無駄の無い構成だったなと思います。

1番可哀想なのは息子のお嫁さんだと思いますが、母親は…最初はあり得ないと思ったけど、実際にあの立場になったら難しいでしょうね。

違和感があるけど、完璧な家族でい続けないといけない、という強迫観念があったのかもしれません。

その抑圧が、夫の死によって全て壊れた気持ちになり、しかも自分に殺意を向ける息子を許せなくなったのは、仕方ないと言っていいのかどうか…

あり得ない、気持ち悪い、怖い、胸糞、という言葉だけでは片付けられないモヤモヤが残る短編作品でした。

絶対に現実に起こり得ない設定、とは言い切れません。

息子に手を出す実父、の事件は実際に聞きますし。

それなら逆があってもおかしくない。

「父親は常に立場が上なもの」「同性間でも、加害者は歳上なもの」という思い込みをひっくり返されましたね。

もちろん比率としては、前述のケースのほうが圧倒的に多いことでしょう。

でもこういう可能性もあるんだ、と思うと、他人を見る目が変わっていきそうです。

他のアリ・アスター監督の作品もかなり怖いらしいけど…観るのが楽しみです!
関連記事