違国日記11巻(最終話)ネタバレ感想~解決しない悩みやトラウマを肯定したフェミ系?
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違国日記(11)
私は結構前からヤマシタトモコのマンガは新作が出ると読む、という感じで、映画化された「さんかく窓の外側は夜」も1巻発売時から読んでいた派。
一時期はヤマシタトモコのTwitterアカウントもフォローしていたし、初期のBL作品も読んでいます。
でも時々「この作品は合わないな」と思って読むのを止めたものもありました。
基本的にはキャラの感情の変化をあまりセリフにしない部分があり、理解できる言動をするキャラもいれば、全く出来ないキャラもいたり、その思考回路が自分の価値観と合わないなと感じる時もあるため、ヤマシタトモコは作品によって私には向き不向きがある漫画家さんというイメージでいます。
で、合う作品だと「すごく面白い!」と思う。
このブログでも何度かネタバレ感想を書いてきていますし。

1巻無料!「違国日記」ヤマシタトモコ1~4巻ネタバレ感想
ヤマシタトモコの漫画では「三角窓の外側は夜」のネタバレ感想を書いてきていますが、他のマンガもほぼ読んでいます。で、ずっとこのフィール・ヤングで連載中の「違国日記」のネタバレ感想を書こうかどうか考えつつ…だったのですが、4巻まで読んで段々と内容が見えてきた、というか、自分の中の感想が固まってきたので、1~4巻までまとめて書きます。※1巻は現在Kindleで無料になっています。違国日記 1 (フィールコミックス FCswi...
「違国日記」は結構好きな作品でしたが、最終話が話題になったのも、実写映画化が決まっているのもビックリしています。
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— 映画『違国日記』公式 (@ikokunikkimovie) June 6, 2023
ㅤ #違国日記 映画化決定💐
ㅤ───────────
ㅤ✨2024年公開✨
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ㅤ
原作 #ヤマシタトモコ
ㅤㅤㅤ×
主演 #新垣結衣
ㅤㅤㅤ×
監督 #瀬田なつき
ㅤ
今、世界が必要としている、
優しさの形を提示するヒューマンドラマが
描かれる𓂃✏.゚・.。*
ㅤ
ぜひ続報をお待ちください🎬 pic.twitter.com/i9AiVhRU1l
新垣結衣は好きだけど、槙生っぽくないな?と最初に思いましたが、「獣になれない私たち」や「逃げるは恥だが役に立つ」というフェミっぽい作品で好演していたこともあり、のキャスティングかな?という印象。
実写化した場合、脚本によってはまた「フェミもの」と言われそうな気はするかなぁ。
そして、それを良い方向に捉える人もいれば、ウンザリ、この手の話はもう飽きた、と思う人も出る気がするんですよね。
全体としての物語は、私はすごく好きな作品なんです。
ただ時々「あー、ここ、作者の個人的感情がものすごく強く出ていて、それが私の許容範囲以上だからキツイかな」と思う部分はありました。
私が彼女のTwitterアカウントのフォローを止めたのも、そういう部分が理由です。
一時期から女性漫画家さんが政治やフェミニズム関連に関して色々ツイートをするようになりましたが、あくまでも私個人の感覚で言うと「それは左に偏りすぎ」と感じる部分が多いなと思っているんです。
長年の学生時代からの友人が左に染まって、私からしたら偏った価値観を上から目線で「ちゃんと本とか読めば、勉強すれば分かる」みたいに言い出すようになり、「いや、こちらはこれまでそういう思想に関してそれなりに調べ、その上で自分とは合わないと判断した価値観なんだけど?」とモヤモヤした気持ちを抱えたまま疎遠になってしまった身として、こういう話題は本当に難しいんですよね…
このマンガの良かった点は、たくさんあります。
明るくて気が利く子犬みたいな性格だけど、両親が突然事故死した少女 朝。
少女時代から続く姉や社会や他人に対するコンプレックスやトラウマを抱えたままの小説家 槙生。
この似ていない伯母と姪の同居生活を見守る、温かい大人たちの目線。
LGBTQや、親子や姉妹など家族との軋轢、恋愛や友情や、それぞれが実は抱えているコンプレックスなど、色んなテーマを取り入れた分、ずいぶん長い連載になったなと思います。
途中から朝が気にし始めた「私のお父さんって、どういう人だったんだろう?」という謎、槙生の「何故、あんなに世間一般の常識を私に押し付けようとしていた姉が、キチンと籍を入れずに出産したんだろう?」は、結局分からないまま終わりました。
だって、もうこの2人は亡くなっていて、答えを出せるものが無いから仕方ないんですよね。
朝の母親の残した日記も、そこまで詳しく書かれていたわけではなかったし。
槙生が欲望と恋愛との整合性を上手く取れないことも、結局そのまま。
でも槙生は今も許せない姉が愛したその娘を、怖いという気持ちも抱えたまま愛していこうと決意します。
朝の高校卒業の時、旅立ちを見送る気持ちを込めた詩を槙生はエッセイとして書き、そしてその後表情は出さずに手元と会話だけで、大学卒業後に朝が就職をし、カフェで昔のことを日記として書き出したと話している様子が描かれたところで、完結しました。
1話冒頭のモノローグは、この朝が書き出した昔の日記の始まり。
キレイにまとまっていたし、あの槙生が姪の朝を本当に大事に思うようになり、そしてその愛情が、急な両親の死で足元が不安定なままだった朝を抱き止める腕になっていくところは、とても優しい物語でした。
大きな部分としては、コミュ障のはずの槙生には良い友達、今の自分をそのまま受け止めようとする元彼、相談出来る仕事仲間がいて、めちゃくちゃ人間関係に恵まれているエピソードが散りばめられているため
「え、槙生って何でこんなコンプレックスの塊を抱えてるみたいな設定なんだっけ?
むしろ自分がめちゃくちゃ幸せなことに気付いてない?」
と思ってしまい、むしろ私自身の方が恵まれない可哀想な中年として突き飛ばされた気持ちになったところ、かなぁ。
もちろん、幸せそうに見える人も、それぞれ悩みを抱えていて、でも笑って過ごしている、というのを描いている部分はとても良いと思います。
それでも、作者の中の怒りのような時事ネタをそのまま出したな、と思われる、朝の友達が
「医大がわざと女子の合格率を下げている」
というニュースに怒って絶望感を味わうエピソードは、正直胸糞でした。
いや、扱いたい気持ちは分かるんですよ。
それでも、知人医師から「結局、女性医師の多くは眼科や皮膚科を希望して、残業しないで済む道を選ぶ」という話も聞くから、私はこの件はあまり口出ししたくないんです。
美大だと、実力だけで合格者を決めると女子だらけになるから、男子の比率も上げるために敢えて試験で自画像を描かせ、男女比を合わせようとした、と過去に教授から聞いたこともあります。
あ、コレ逆とは言わない、というか、どちらも男性優遇の話ですね。
そういう性差の話は、本当に難しい。
話題が逸れてしまうからアレですけど、マンガという媒体で考えた時に、私はよしながふみのように物語としてそういう性差のエピソードを使う作りが好きです。
例えば「愛すべき娘たち」で「女性弁護士とか、何でいちいち『女性』を付けるの?そうじゃない社会にするためにも、私は自立する」と息巻いていた女の子が、結局家庭環境の複雑さで進学も上手く行かず、仕事も恋愛も徐々にグダグダになっていき、再会した時には優しく支えてくれる彼氏を見つけて笑顔で現れた、という話とか、こちら側に色々な選択肢を持たせてくれるやり方だと思うんです。
愛すべき娘たち
男女差別とかLGBTQの差別とか、そういうのは私もすごく嫌。
もっとこうなったら良いのに、と思うことはたくさんある。
けど、それを迎合している人もいれば、その状況に甘えているのが楽だという人もいる。
色んな人がいるから、こういう時事ネタを扱う時には「読者の想像力を掻き立てる」というやり方をする方が、私は個人的には好みなんです。
いや絶対的にそれは無しだろ!って思うこともたくさんあるけど。
この「違国日記」のストーリー全体を考えた場合には、あの医大の話は少し一方に偏りすぎていて、そしてそれがそこまで大きく薪生と朝に影響を与える話だったと思えない、かなぁ。
描き残しておきたかった作者の気持ちも想像つくのですけどね。
よしながふみと、ヤマシタトモコを比較して上げ下げする気もありません。
あくまでもフェミニズムとかを扱う場合は、やり方が少し偏っていると、受け手としては物語とは違う方に意識を持っていかれてしまうんじゃないかな、と言いたいだけなんですが…
薪生は「彼女」という立場に居心地の悪さを感じたり、男性というものに戸惑っている部分があり、でも元彼とは友達として何でも話せるし、肉体的な欲望も抱ける。
それは矛盾ではなくて、人ってそういうものだよね、というお話で、その表現の仕方は好きでした。
「分からない」と思いながらも、それをそのまま受け入れて側にいようとしてくれる元彼、良いやつすぎ。
というか、この元彼も、弁護士の男性も、フェミ系の女性にとってめちゃくちゃ理想的な男性像だったわ~。
どちらもそれぞれコンプレックスも抱えていて、でも大人。
一方、朝の父親は謎のままです。
職場の人とも、妻子とも、まともに話をしようとしないままだった。
何故そんな男性をお姉さんは好きになったんでしょうね?
分からないことは、分からないままで良い。
それも飲み込んで進んでいく朝を、薪生はずっと側にいても良いし、出て行っても良い、という気持ちで愛していく。
その過程が丁寧に描かれていたなという部分と、お互い随分と社交性があって性格が良くて、心が広いなぁ、とこちらに劣等感を抱かせるくらいスムーズに進行していた部分のある物語でした。
だから読み終わった時、スッキリした気持ちと、寂しい気持ちと、モヤモヤが残ったままとなっています。
この作品を大絶賛する人の気持ちもわかる。
大人として、こんな風に子供を見守りながら、自分も成長していきたいと感じる部分もある。
私にもこんな風に受け止めてくれる人がいたら良いけど、もう手に入る機会は無いな…とも思わされる。
学生時代の友人との交流は、今からこんな風に再度築けませんからね。
「そんなに恵まれているのに、何が不満なの?」と言う言葉は、薪生を更に追い詰めるでしょう。
逆に、そんな薪生を見て追い詰められた気持ちになった側は、それこそ薪生に対して冷たい態度を取っていた姉の気持ちだったのかもしれません。
「良いよね、それだけ好きに自我を通していけて」
お姉さんは妹に対してそう思っていて、せめてもと自分は娘を愛することに心を砕いたのかな?
最終巻の中でも、薪生が友人から「私達が喧嘩をせずにここまでこれたのは、お互いに気を遣ってきていたからだ」という旨のことを言われるシーンがありました。
人間関係を築くのが苦手と思いこんでいた薪生は、でも実は無意識にそれをやってきていた。
自分が気に入った人にそれを発揮し、うまくやってこれているなんて、羨ましい~!
あぁ…とても良いマンガだったと思っているのに、最後の最後にこんな嫌味っぽいようなことを感想に書いてしまう自分が、本当に嫌だわ。
と思う私も、これはこれで自分はそういう人間だとして受け入れていくしかない。
ただただ、自分の中でこれだけは嫌だという部分だけは越えたくないし、不必要に他人を傷つけたりしたくない。
世の中には色んな人がいて、関わるのが楽しい時も、そのせいで傷つくこともある。
このマンガは幸せな大人か、まだ夢を見られる若者に読んで欲しい作品だな、と思いました。
実写映画がどのような仕上がりになるのか楽しみであり、怖いです。
もしかしたら、今私が抱いているようなモヤモヤを他の人に与える作品になる可能性もあるので…
そしてそれ以上に、アンチフェミが不快感を示す可能性もある。
敢えて言えるのは「これは絶対に世界中の人が読むべき!」という「べき論」で、このマンガを私は他人に勧めたくない。
読んで色んなことを考えさせられたし、面白かったです。
自分自身の嫌な面も抉られました。
心に余裕がある時に、また一から読み直したいなと思います。
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