水城せとな「黒薔薇アリス」続編dc含む既刊9冊のネタバレ感想~繁殖相手はダメンズでもOK!

2023年06月15日
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今更なのでしょうが、水城せとなの「黒薔薇アリス」を全6冊一気に読み、


黒薔薇アリス(新装版)(1)

そのまま現在まだ連載中の続編「黒薔薇アリス d.c.al fine」3冊も読みました。


黒薔薇アリスD.C.al fine (3)

第1部にあたる6冊だとキチンと完結しきっていなかったので、続きが気になったんです。

今までこの作品に手を出していなかったのは、表紙がいかにもヨーロッパが舞台の少女マンガ風だったから。

基本的に水城せとなの作品は全部好きだけど、「放課後保健室」はいまいちピンと来なかった過去があり、そのノリかなぁとも思い込んでいたんです。

が、読んでみたら違う!

冒頭こそ100年前のウィーンが舞台ですが、以降は現代の日本のお話でしたし、表紙の女の子は本来は別人。

吸血鬼ならぬ吸血樹が、寿命までの間に繁殖相手を見つけ、その後男は翌日死に、女は1ヶ月後に種(たくさんの蝶)を産んだら死ぬ。

死というのも樹になる、というもので、普通の吸血鬼とは違います。

また種は「次のヴァンパイアになるに相応しい、死んだ人間」の中に入り込むため、赤ちゃんを育てる必要は無し。

人間の血を吸う、ではなく、体内に飼っている蜘蛛を使って養分を取り入れたり、と、長生きだとか異能力は使えるけれども、オリジナル設定が盛りだくさん。

1部では、男子生徒(生島光哉)と恋に落ちた高校教師28歳の女性(菊川梓)が、一緒に交通事故に遭った光哉を救うためにヴァンパイアのディミトリ(元テノール歌手)と契約をし、代わりに彼女の肉体は死ぬけれども魂は別の少女(アニエスカ)の中に入り込み、新しくアリスという名前を名乗るようになります。

そして相応しい繁殖相手の男を選ばされるというのが大テーマでした。

ので表紙に出てくるのはディミトリとアリス。

候補者はディミトリ、レオ、櫂と双子の弟の怜ニ。

生前、親友兼貴族の息子テオの婚約者アニエスカを愛していたディミトリは、テオを力で死なせてしまい、その上アニエスカに目の前で自死されてしまっています。

元々はプレイボーイだった上に、テオとアニエスカに対して罪悪感のあるディミトリは、ヴァンパイアのマクシミリアンにアニエスカの体を生かしてもらい、その体に入れる魂を探し続けている中で梓に目を付けました。

ちょっと複雑、というか、現時点でまだ描かれていないのは、ヴァンパイアは親にあたる男の意識を多少残していて、その原核にあたる「ブラッドレイ」「マクシミリアン」「エドヴァルド」「クラレンス」の4人についてまだ全て語られていないんです。

マクシミリアンの想い人アレクサンドラが、ブラッドレイとの間に種を残した、ということのようなのですけど…

それもマクシミリアンがブラッドレイに差し出した形のようです。

第一話の一番最初に、「マクシミリアン、私あなたの役に立てたのよね?」と言いながら繁殖を終えて樹になる女性が出てきましたが、彼女が櫂と怜二の種を産んだ人?それともアレクサンドラ?

種は一度に大量に発生し、その内の一部だけキチンとヴァンパイアになれる、という設定のため、ブラッドレイに仕えていたマクシミリアンの種を持つ男が複数いることになっています。

男たちは繁殖してもしなくても、寿命が来たら死んでしまう。

また、女性がヴァンパイアに対して嫌悪感などを抱いていたら、良い子孫は残せない。

数少ないヴァンパイアを絶やさないために、それぞれが相応しい相手を見極め、命をかけて繁殖する。

だから、相手は誰でも良いわけじゃないけど、経済力とかルックスとか誠実さとか年齢とか、共に夫婦生活を送れるかどうか、は判断基準になりません。

レオも櫂も玲ニも、ディミトリに仕えながらアニエスカの肉体が目覚めるのを待ち、アリスとして生まれ変わった梓に恋をして繁殖をしようとしている前提なのですが、結局レオは選ばれる前に寿命が尽きかけ、ギリギリで他の女性と繁殖をして消えました。

生前の記憶を失っていた玲ニは、病弱ながらも恋人がいたにも関わらず、櫂に寝取られて2人を猟銃で撃った後に震災で死んだことを思い出したため、後半は性格が激変してしまいます。

アリスは最後にディミトリを選ぶ、というところで一部は終了。

その後の続編では、ディミトリとアリスの間に生まれた種を引き継いだ少年の山本黎司が現れ、1人残った櫂が彼に過去のことを話していきます。

テオも吸血樹になっていたこと、玲ニはアニエスカの体を生かすのに使われた「音叉」を使って自死していたことは分かりました。

櫂はディミトリから、「自分の種を継いだ者に仕えるか、相応しい相手じゃないと思ったら放置して良い」と言われていたため、現段階ではまだ黎司に対してそこまで愛着が無い様子。

黎司はケロッとこの状況を受け入れていて、同じ高校の彼女ありさと櫂の話を聞いているのですが、この後どうなるかは分かりません。

というファンタジー的な設定を楽しむのも良いのですが、そこはやはり水城せとな!

「恋愛」に対する描き方が、夢見がちなようで、残酷なようで、リアル!

1番グッと来たのは、外見が変わっても自分が梓だと気付いてくれた光哉に対して、2年後にいざ再会して肉体関係をもってみたら

「もう愛していない」

と梓が気付くところでした。
一通り読んで謎なのは、アリスがディミトリに惹かれる気持ちは分かる。

でも、ディミトリがアリス、というか梓のどこをそこまで愛したのか?
という部分です。

でも、水城せとなの描く恋愛ものって、そういう「落ちた」という感じの展開が多いかも?

「脳内ポイズンベリー」はコレとは逆に、未来を考えて相手を選ぶ結果になっていたけど。

とにかく頭の中がワーキャーなってしまう、惹かれてしまう相手、というのは、本能的に「繁殖相手」として魅力的な人なのかもしれない。

ここは性的マイノリティーはどうなるの?というのとは別枠で考えないといけませんが…

自分の人生を選択することと、種の存続のために繁殖するのは別物、ということなのでしょう。

動物間でも同性愛はあるしね。

でも「幸せ」という理性的な観点で考えたら、そんな気持ちだけで突っ走っていけるものではない。

梓は心を乱される男、というのが好きで、光哉に対してもそういう気持ちを持っていた。

でも2年経って、まだ自分に対して未練や執着心を持ったまま堕落している姿を見て、冷めたのかな。

その点、ディミトリは本心がどこにあるか分からなくて、不安にさせられ続けるタイプ。

レオも素敵だし、櫂は距離を詰め過ぎずに優しくしてくれるし、玲ニは明るくて楽しいけど、雰囲気あるのはディミトリだし。

どうせやることやったら終わる繁殖相手なら、惹かれる相手を選びたい、のかも。

続編を読むと、二人の仲はそれなりに想い合っていて、キチンと繁殖をしたことは分かっています。

だからこそ黎司がいるので。

黎司は母親の再婚相手から虐待されて殺された後にヴァンパイアになっているので、その割に開き直れているタフさにはディミトリ、というかブラッドレイの影響があるのかもしれませんね。

梓とアリスの性格はかなり違う方向に変化しているように感じたけど、改めて考えると刹那的で自己犠牲に躊躇いがない、割と恋愛脳なタイプなのかなと思えてきました。

それって、私からすると羨ましい。

というか、ちゃんと彼女は好きになった相手と両想いになれてる!

櫂と玲ニからも「小悪魔タイプ」と言われていましたが、こういう真面目でシッカリしていて可愛げ無い、けどモテる女というのは、読者からすると「共感出来ないけど、内心羨ましい」と思えるキャラな気がします。

「推しの子」なら有馬かなタイプ?

他作品だと、男がキッカケで素直になっていく、とか、そういう鎧を剥ぎ取るとか、実は良いところもあるエピソードが後から出てきてからのラストだと思うのですが、彼女に関しては

「繁殖のことを第一に考えることで、自分がすべきこと、弱さと向き合う」

ということを、ほぼ自己完結でやっているなと思いました。

相談に乗ってもらったりはしているけど、自分の気持ちの変化を自分で受け止めて、その上でディミトリを選んでる。

ディミトリは結構面倒くさい上にモテるから面倒そうだな〜と私は思いますけどね…

元々自分が貴族ではない、身分が低いという劣等感があり、それにプラスして親友と愛する人を亡くすキッカケになってしまったこと、自身の心の弱さを受け入れきれていないところが、少女マンガらしいモテ要素なのでしょうが。

純真無垢なお嬢様のアニエスカと、現代日本で独身女性として働いていた梓では、全く性格は別物。

テオが彼女に関心を抱かなかったのも納得…というか、テオはいつの間にヴァンパイアの種を受け付けられていたんだろう?

そんな簡単に次々と繁殖は出来ない設定のはずなのだけど。

「もし自分なら…」と妄想する余地の無い設定ですが、怜二がまず櫂ではなく恋人を撃ったように、「え?」と思う行動を起こすところも水城せとならしいな、と思いました。

これ、櫂からすると、自分が先に撃たれるより精神的ダメージ大きいですもんね。

「自分が勝手にやったことなのに、想い人を死なせてしまった」

これはディミトリに通じることなのでしょう。

生島光哉はその後どうしているのか、は今後出てくるか分かりませんが、あの状態からキッパリと梓を忘れて新たな人生を送るにしても、10代後半を棒に振る形になったのは気の毒だなとも思います。

こういう「相手のためを思って、自分を犠牲にしたら幸せに生きてくれると思ったのに」という梓の期待が裏切られていたあたりも、人の執着心を描いているなと思いました。

なんかこう、「普通こうなると思ってた」のテンプレを外すところが良いんですよね。

人ってこういうものだしってある程度の年齢になると思い込みやすいけど、実際は全員が全員そのテンプレ通りに感情を変えるわけではないし。

予想の斜め上を行くわけじゃなく、「そういうパターンだってあるよね」と納得がいく方向になるの、私は好きです。

この先の展開が、単に過去の説明パートなだけになってしまわないと良いなと思っているのですが…どうなんでしょうか?

続けようと思えば続けられる設定だけど、現時点で広がっている風呂敷を畳むだけでもまだ時間がかかりそうな気がします。

それでも「繁殖してもしなくても、寿命はくる」という設定は、人間に限らず動植物含めて言える原点だなぁと思えたし、読者の状況や年齢によって受け取り方が変わる話かもしれないなと思いました。

いっそ…首の印があんな風に分かりやすく広がって余命が分かり、繁殖出来ないまま首が落ちて樹になるのもアリなんじゃないかな…年も取らないしさ。

1部の終了から2部開始まで結構時間が空いているし…「世界で一番、俺が○○」も休載状態だから、本当にこのお話が終わるのかドキドキ…

ということで、また続刊が出たら買って読もうと思います!
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