耽美系BL文学の長野まゆみ「左近の桜シリーズ」4作ネタバレ感想~家系図を作って分かった桜蔵のルーツ

2022年10月02日
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高校時代に友人から長野まゆみの小説をオススメされて以降、コンスタントに単行本が出たら買って読んできています。

当時はまだBLという言葉は無かったけれど、作品のほとんどは耽美系BL文学、と言える、かな?

美少年達が現実離れした世界の中で、仄かに惹かれる…というと野暮な説明になりますが、生々しい描写は基本無くて、熱く恋を語らったりはしません。

不思議な世界観を古風な文章で描きながら、そこに少年たちの恋もある…くらい。

宮沢賢治とかの影響で、ファンタジー要素もあり。

シリーズによって、舞台は明治大正時代あたりの日本だったり、現代だったり、異世界だったりするのですが、「左近の桜」シリーズは現代の日本になっています。

で、先日読んだ「その花の名を知らず」は4作目


その花の名を知らず 左近の桜

男同士が逢引に使う宿「左近」の長男の桜蔵(さくら)が主人公。


左近の桜 (角川文庫)

※ちなみに単行本の表紙で桜蔵らしき少年は前髪を下ろしていますが、本文内では「普段は前髪を下ろしていない」という描写がありました。

戸籍上は庶子で、認知されている父親は柾(まさき)。

柾は父の跡を継いだ医師であり、姿形が良く、博識で運転も上手くて完璧な男。(年齢は桜蔵が大学生の頃で40代前半。白髪が増えてきていて老眼も始まっています)

柾には男性の恋人が複数いるけれど、それも公認状態。

柾の本妻の遠子は子供を作らない前提で結婚していて、桜蔵と弟の千菊(ちあき)の母親とは顔を合わせないけれど公認とし、兄弟との関係は良好。

遠子の年齢は桜蔵が高校生の頃は30代半ば。

桜蔵の母親の年齢は、桜蔵が大学進学時頃で40歳手前。

桜蔵はシリーズ1作目では高校2年生で、1学年上の彼女の真也(まや)はいるけれど、男の霊から体を狙われがち。

真也は柾とも遠子とも親密。

桜蔵の特徴は、死人の男と交われる極上の女、らしい。(肉体的に受け、という意味では無い様子)

3作目では大学3年生になる直前まで来ていました。

桜蔵があの世のモノ達と関わり、困った事態に陥ると柾が助けてくれる。

でも桜蔵は、弟の千菊は確かに母と柾の子供だろうけれど、自分の両親は、母と柾では無いだろうと認識し、父親が柾で無いことは柾も認めています。

さて今作は、読むのが発売から少し遅くなりました。

検索したら新刊が出ていたのが分かって、あー買おうかなと思ったら高い!

電子書籍の方がセールで安くなっているけど、それでもまだ文庫化していないから高い。

で、最寄りの図書館に行ったらあったので、借りてきて読みました。

その前にAmazon等の感想を読んだら、皆さん困惑している様子…

「過去の3作と雰囲気が違う」

と言われていましたが、確かにそう。

そして3作目までの間に桜蔵は高校生から大学生になっていたはずなのに、今作では大学生の桜蔵がバスの事故に遭ってから記憶が高校1年あたりに飛んでいき、時系列が分からなくなっていきました。

柾方の祖父の遺品の話から、2つの盌(わん)の行方を探す内にルーツを辿る、というのが今回のテーマ。

BL的な要素は無く、出会うのは妖というよりも過去の祖父や曽祖父の代の人たちとなります。

「家系図が欲しい」

という感想も多く、私も頑張って作ってみましたが…本当にコレで合ってる?という箇所もあります。

手持ちの1、2作目(3作目は行方不明のため図書館で借りました)も読み返して補足しました。

左近桜蔵_家系図

白幸(つくもゆき)の子供 清子(さやこ)の父親、結婚相手が誰かは憶測状態です。

話の流れでは、子供の取り違えがあった為に白幸は白鳥姓で育っていて、婚約の時点で既に白家の男性の子供(曰くがありそうなので、実は兄弟だった?)を孕っていた可能性あり。

本人が名乗っているのが本当の名前じゃなかったり、柾も言及しますが「遠子たちが事実を知らない」というのもあり、混乱していくんです…

全巻読み返して分かったのは

●桜蔵は左近家の血を継いでいる。
左近家の故人 永門(ひさと)に似ているので、弟かと沖兄妹に間違われるシーンがあるので。

●蛇の属性を桜蔵も継いでいて、それが「女」とよばれることに関係している。
(妖と会った後やたら服を脱いだ状態で目覚めるのは、服は蛇の抜け殻ということ?)

千菊が卵好きなのも、蛇の血を引くからでしょうか。

●桜蔵の母と柾は縁戚。柾は元々は桜蔵の祖父の教え子。

●柾と桜生は恋愛関係にあったが、知り合ったのは桜生が高校卒業後に質屋に養子に入った後。

●柾の親族と遠子は、幼少期から親しい同級生。但し柾と知り合ったのはそれ以降。


何にせよ、あちこち血縁関係になっているため、桜蔵はルーツを辿れば両親と繋がってはいるのでしょう。


と、ここまで書いてアレなんですが、やはり基本的に読者の多くが期待しているのは、BL的な妖と左蔵の絡み!

それが今回はありません。

これは1作目の高2の桜蔵が「初めて男を拾った」という設定だったため、高1の時点ではまだその手のことは起きなかったということかと。

柾の苗字が何なのか、は分かりません。(父親が白鳥から何番目かの妻の苗字に改名)

柾は桜蔵をどういう目で見ているか分からないのですが、幼少期から可愛がっていたのは確か。

桜蔵を通して桜生のことを考えつつ、「女を育てる名人」として息子に接しているようですね。

まぁこの物語は、本来は家系図や時系列はあまり考えず、雰囲気を楽しむだけでも良い、かな。

私が長野まゆみの作品を好きなのは「品のある所作」を知ることが出来るのと、古めかしくも美しい文章を読めるところですね。

これは日本語学習者の外国人に読ませても、謎だらけになってしまうでしょう…

最近は私もあまり小説を読まなくなっていますが、やはり話し言葉と書き言葉と、文学の言葉は別物。

昨今の分かりやすさを求める風潮や、設定の奇抜さやテンプレ通りのハピエンやバドエン等を求める手合いには、ウケないかもなぁと思います。

ミステリーならまだ謎解きとして楽しめるけど、こちらはそれでも無いし。

全体的に書(文字)とか茶道とか骨董品とか、今回だとアケビとかザクロとかが幻想的な描写で説明されていて、そういう世界観に浸りつつ、桜蔵の成長や魅力的な男たちを楽しむ…という中に、各家のルーツが蛇の特性として繋がっていく。

そして「一度死んだ男の体に、他の男の霊が入り込んで桜蔵と交わる」という妖モノの設定も色っぽい。

桜蔵の両親は誰なんでしょうか?

一瞬、桜生?と思ったのですが、読み返すと柾に質屋の望月に行かされた際に桜生と会い、関係を持っていました。

桜生はあちこちの男と関係を持っていたようなので、女性との間に子供を作ったという可能性は0では無いけど…状態。

桜生は拾われっ子のため、妹のために養子に出たということですが、彼の両親もまた不明となっています。
しかし、長野まゆみはこういう作家、と長年の間にファンは分かっているから良いけれど、この設定は新人作家さんが大手で今のご時世に出すのは無理でしょうね。

男子高校生が両親たち公認状態で成人男性と関係を持つ(ほぼ心霊体験状態で、ですが)というのは…

ただ、高校生の時点で「あと数年で極上の女に育つ」と言われていたため、桜蔵は次の巻の年齢では育ち切る可能性があります。

また、気になるのは「私の手に負えなくなっている」と柾が言い出し、大学生になってからは自宅に桜蔵を住まわせているところ。

遠子に魔除けの力があるため、それで柾は遠子と結婚したのかな?

桜蔵があの世のモノと関わっていくのを、柾は止めることが出来ない宿命と認識しています。

が、その為に何度か桜蔵は命を落としかけていて、事故に遭ったり凍死しそうになっている。

これは左近の男たちが短命なことに関係している?

柾が間に入らないと、桜蔵は早逝するかもしれない、とか?

桜蔵の母と柾は、柾が高校生くらいの頃から左近の家で顔を合わせているはずです。

遠子と知り合ったのはそれ以降。

1番しっくりくるのは、桜蔵は桜生と母親の葉子の子供で、妊娠中に桜生が亡くなったために柾が認知し、家族という形とするのに柾と葉子の間でも恋愛関係となり、千菊が生まれた…なのですが…

であれば、桜蔵の祖母や柾が、桜蔵に桜生の面影を見出すのにも納得がいくし、永門に似ているというのにも繋がります。(左近の血がどこかで入らないといけないはずなので)

が、現時点ではまだ説明されていない家系図がありそうなので、分かりませんね。

とりあえず、いくつかの家系が横に繋がっていっているため、そのどこかで皆んな繋がっていくのでしょう。

何分戦時中の話も出てくるため、確実な家系図が分からない、とされてもいます。


桜蔵がこれまでに関係を持った男たちですが、行きずりのマネキンやら柾に惚れた大学生、なんてこともあれば、家系図に関わる人達もいました。

左近家は元々はそれなりの家で、今はこういう宿が流行らないから金銭的に困っているけれど、元は名家だったようですね。

真也と桜蔵の関係ですが、まだキスまでだけなのか、さすがにもう肉体関係があるのか、が描写されていません。

真也は遠子と親しいし、そもそも桜蔵は中高一環の男子校に通っていたため、彼女と出会ったキッカケも遠子繋がりなのかな?

そして真也は桜蔵が男と関係を持つ状況なのに対して、ある程度既に理解していそうにも思えます。

家系図を書いていて気になったのは、白幸と高見江子の取り違いをした産院というのは、もしかしたら遠子の実家?の可能性あり??

なんて繋がりを、実際どこまで確実に決めて長野まゆみが連載しているかは分かりません。

本当に、こういう繋がり自体はそこまでハッキリとさせなくても良い作品かもしれないし。

それでも、桜蔵が男として柾に惹かれつつ、でもやはり父親という男として認識している関係性は、こういうルーツにも繋がっていそうですねぇ。

あくまでも親子として接しているシーンでは、柾は本当に頼もしいカッコいい男でありつつ、穏やかに優しくて素敵。

柾は「桜蔵は女」「千菊は男」として接していると言いますが、この兄弟の成長は遠子も楽しみにして見守っているし、まだ若いのに大人たちがどっしり、かつ飄々と過ごしているところもまた良い世界観。

誰も常識には縛られないけれど、古式ゆかしい文化伝統は大事にしているところが良い。

茶道とか書道の世界のルールは、なかなかもう知る機会はありませんし。

特にこのシリーズでは、過去の世代の人達は戦争に行ったりしているため、そういう歴史的な話として捉えることも出来ます。

現代っ子として携帯も持つ桜蔵が、過去の死者たちと交わったり、会話をして過去を覗き見る。

謎な部分は柾に聞けばある程度わかるけれど、敢えて教えてもらえないこともある。

そのスッキリし過ぎない複雑さが「蛇」とか「女」というのに関係しているのでしょうか。

若い頃読んでいたら中二病っぽさをただただ楽しめる作品だったのですが、この年齢になってくると弟の千菊のブラコンっぷりも可愛く思えてきますね。

こんな無垢な素直な子が、徐々に柾に似た平然とあちこちの男と関係を持つ青年になっちゃうのかしら…(現時点では女の子にしか興味が無さそうですが)

冒頭から物分りが良すぎる桜蔵ですが、幼少期のエピソードでは4歳下の弟が出来たことにちょっと寂しさを感じていて、それで甘えたことを言って柾に構われているところなんかも良いなと思います。

普段は茶化しているくせに、桜蔵の命が危険になると柾も必死になるし。

きっと全てが解明されないながらも、桜蔵は最後には成長して柾の手元を離れていくのがラストになるのかなぁ。

という待て次巻、状態だったんですね。

そしてそれはきっと、桜の時期になるのかなと思います。

桜生の遺灰を撒いた桜の木の幹を炭にして墨を作り、桜蔵が1歳の時にそれを背負わせてハイハイさせ、18歳になるまで蔵で保管した後に関係者に配る、という独特の風習もロマンチックで良かったですが、そういう「桜」に纏わるお話としてシリーズがキチンと幕を閉じるのかなと思うと、それはそれで楽しみです。

とりあえず、柾が子どもたちに作ってくれる絶品の缶入りパウダーで作ったココアを飲んでみたい!真似してみたい!

そういう素敵な料理を知ることが出来るのも、長野まゆみ作品ならではの良さですね。

万人受けする作品ではないと思うけど、BL好きな若い人にも読んでほしい作家さんだと思います!
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