「花に染む」の陽向への罪悪感再考察と、番外編「はる風の誘惑」ネタバレ感想
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花に染む 1【電子書籍】[ くらもちふさこ ]
主人公の花乃、陽大、雛、楼良の立場を想像しながらそれぞれの目線で読み返す内に、何だかもう全部のキャラやシーンが切なくなってきて、予告動画を観ても涙が出てくるようになってきました。

「読み返す度に新たな気付きがある」と色んな方が言っていますが、私としてもどうしてもまだ違和感があったんです。
各コマのちょっとしたセリフに「ん?何でこう言ったんだろ?」という部分があるんですよね。
で、「くらもち花伝」を読んである程度納得したかな、と思っていたけど、やっぱり納得いかなかったのは「何故、陽大は自分の体配を楼良に教え込んだのか?」。
「くらもち花伝」を元に「花に染む」の陽大と花乃と楼良と雛の「運命」を再考察
「花に染む」のことを、まだまだ考えていて、「くらもち花伝」を買って読んで、それで知ったことを過去記事に追記して…を続けていたのですが、それから更にまた何度も読み返す内に、「あれ?キレイにまとまって終わってるって思っていたけど、やっぱり腑に落ちないな…?」と思うことが出てきてしまいました。くらもち花伝 メガネさんのひとりごと陽大と花乃がこの後結ばれるんじゃないかなぁ、分からないけど…でもインタビューで作...
いや、シンプルにそこは「花乃を喜ばせるため」とセリフ内にあるのだけど、まだ納得がいかなくて…。
あれで「陽大はずっと、花乃のことを好きだったのね!」とは言えないと思うわけです。
でも、何度も読み返す内に陽向兄のことを少し考え足りなかった気がしてきました。
後から記憶のすり替えの話が足された、それが無いと陽向の話が作品内に足りないと編集さんに指摘されたから、というのは「くらもち花伝」に書いてありましたが、そのくらい読者としても陽向という存在の大きさがいまいち記憶に残らない流れであそこまで話が進んでいます。
雛曰く「物事が思い通りに進んで当然と思っている」性格と思われていたけど、でも「勝負事は苦手」「僕は弟ほど弓に執心していない」「成績が落ちているから高校に入って弓を続けるか分からない」とチラホラと弱音を吐いています。
弟が花乃にベッタリなのを見守っていた兄にとって、弟は羨ましい存在だったろうになぁ。
将来の責任を負っている長男と違い、運動神経が良くて大好きな弓道に熱中でき、よく笑う無邪気な末っ子くんな上に、雛に似た美形の弟。
兄が「最後の試合になるかも」と緊張していた予選では、上手く射れた花乃は主将の兄ではなく、陽大に抱きついていました。
元々兄に優勝をさせてあげたい、が花乃と陽大の願いだったはずだけど、でも花乃にとって一番喜びを伝えたかったのは親友の陽大。
大会で優勝したときのシーンでは、兄が陽大に手を回し、花乃はガッツポーズをしていました。
でも流鏑馬しかり、予選や本戦しかり、皆んなの記憶に残っているのは当時1年生だった陽大なんですよねぇ…
お父さんは優しいタイプだったけど、お母さんは厳しいタイプだった、ということを思うと、陽大があんなに天真爛漫な子供だったのは、優しくて頼れる兄に大事にされていたからだろうなぁ、という気がします。
それなのに、好きだった雛が弟を好きだと知るなんて、本当に哀れ…
後輩女子からは「なんか楽しくない?」と言われてしまった陽向は、大人からはチヤホヤされていても報われない存在でしたね…
だから読者も陽向のことがあまり印象に残っていません。
ただ、作者的に陽向のエピソードを当初これ以上入れる予定じゃなかったのは、あくまでも私の想像ですが
「私は陽向兄を助けられなかった」と花乃が陽大に言うシーンで、花乃の後悔が十分伝わると思ったから、では?
あのシーンは「もし花乃が陽向を助けられていたら、雛と陽大はこんなこじれた関係にならなかった気がする」に続く上に、「陽向兄は絶望したまま逝ったんだ」という陽大の怒りに繋がります。
それがあの「伯母さんを好きだったのは兄」にうまく繋がるのですが、でもふと
「花乃が笑わなくなったのは、陽向兄を救えなかった自分を責めているからじゃないか。
いつまでも雛も倭舞も拒絶する自分が、花乃の心の枷になってるんじゃないか?」
と陽大が気付いたシーンだったなら?と思い始めたした。
陽大は何度か花乃に「二人の時は倭舞の話をしても構わない」「好きにしていいよ」と言っているのに、花乃は気にしてなるべく話題に出さないようにしている。
三人立ちの時の映像を「見たいか?」と花乃にウズウズした感じで聞かれても、「見たくない。過去は切り捨ててく」と断る。
…お前…最も過去の大事な部分である、花乃のことは切り捨てられないどころか、側に置き続けているくせに…!
でも、映像を見て「良かったよ、すごく。自分なのに自分が羨ましかった」と言う花乃のことを笑顔で見る…ということは、自分よりも強く、あの三人立ちが花乃にとって大事なものだと実感したシーンなのでしょう。
花乃には心の支えとなっている大事な思い出だけど、陽大にとっては…何なんだろう?
三人立ちを始めた当初も、兄と一緒に射れることよりも、「花乃のことを見ている」という方が重視されていたように見えました。
前にも書きましたが、花乃は陽大と三人立ちをしたかったわけではない。
新保さんからの申し出を嫌がっていましたから。
その花乃が急性胃腸炎で倒れても、雛のために試合に出たがっていた姿を見て陽大が暗い顔をしたのは
「陽向兄の立ち位置で雛が落をやることを、花乃も望んでいるんだ」
と思って、陽向兄のように雛を受け入れる花乃にショックを受けたから、かもしれません。
雛が三人立ちをやりたがっていた、そしてそれを叶えるために陽大は水野に弓を教えていた、だから三人でやりたい、と花乃は思っていたけれど、それが実現した時に陽大が花乃の為にやっていたことだと分かって泣く。
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— くらもちふさこ展公式_弥生美術館_5月29日まで (@kuramochi_ten) February 7, 2022
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もしかしたら、アレは花乃も陽向兄への想いから解放されるシーンだったのかもしれないなと思いました。
陽大自身は、雛が兄と同じ落をやりたがっていたこと、そんなに気にしていない気がするんですよね。
いや、花乃が出るということは、楼良が中、雛が落、というのは技術的にも運命的にも決まっているのは分かっていたと思います。
花乃が陽向のことを思い返すシーンはあまりありませんでした。
自分より、実の弟の陽大の方が強いショックを受けているのは当然で、だからこそ花乃は陽大を守ろうとしていた。
また、陽大と楼良がついに関係を持ったかも?と予想していた時、花乃は
「どんな形でもいいから陽大の側に置かせて貰いたいし、多分陽大は…」
と思った後、鏡に映った自分を「キモい顔してた」と思っていました。
アレは「多分陽大は私を恋愛対象にはしない」に続いたのだろうと思います。
ずっと自分より雛を優先していたし、自分は力強くて女っぽいタイプじゃないし、女としての自信は無かったんでしょうね。
新保さんが「陽大の側には綺麗な人がいて欲しい」と言った時に「その考えをよく知っている気がする」と花乃は思っていましたが、花乃は
「自分は、陽大の恋愛対象になれるような女ではない」
と自覚していたのでは。
陽向兄の健気な片思いを雛が受け入れたがらなかったということは、「好きだからって上手くいくわけじゃない。むしろ傷付く可能性がある」ということになる。
陽大は、花乃が「自分は恋愛対象外と思われているだろう」と思っていることに、気付いていたでしょうか?
むしろ積極的にアピールしまくっていたかのようにも見えます。
「もう親友は私じゃないのかも…」と思って落ち込んでいた花乃は、眠ってしまって陽大におんぶされて連れ帰られる時、腕をぎゅっと回して「覚えてるか?」と聞いた。
あれは「あの時やはり陽大は意識を取り戻していた」というのを再確認するシーンでしたね。
が、眠る花乃の肩から陽大の上着をかけてやり、起こさずに連れ帰るなんて…キュン…
全然陽大からのアピールに気付かない花乃を「にぶい」「まだ恋心というものに目覚めていない」と言う意見もネットで見かけましたが、私も最初はそう思っていて、それで「親友」という言葉に囚われ過ぎていたのかなと思ったのですが…
しかし、やはり花乃は恋心自体は自覚していて、でも「自分を陽大がそういう目で見てくれるはずがない」と思い込んでいるのであれば、それは陽大の「僕の側にいてよ」に対して「誤魔化すなぁ」に続くのも納得な気がするんです。
花乃はそういうアピールのような好意を示すことを陽大が自分に言うのは、「親友だから言う冗談」だと思っているから。
陽大と花乃と雛は、陽向兄を救えなかった3人。
何度も繰り返し読む内に「あれ?やっぱり陽大は雛のこと好きだったのかな?」「いや、でもずっと花乃のことが好きだったっぽくもあるよな?」「でも、花乃はやっぱり親友?」とグラグラします。
実際のところは、男女でも親友という関係性はあると思うけど、そしてマンガだとは言え、陽大と花乃の距離は近すぎますけどね。
過去のくらもち作品でさえ、中学生ならもう恋心を意識していたものです。
親友でも親族でも、異性であんなにハグしたり、一緒に寝たりするなんてことは、絶対に無い!
花乃だって実兄がいるのだし、中学2年の時点で男子部屋でそのまま寝ちゃうようなところはあったけど、さすがにそれは20歳になってやるもんじゃない、というのが分かっていたからこそ、最初は「N字で寝るか?」と言ったのだろうし。
まぁ雑魚寝自体は私も20歳くらいの頃は男女5人でしたりしてましたが、2人きりってのは男友達とはしていませんねぇ。
「東京のカサノバ」でさえ、高校生の多美子が19歳の兄と一緒に眠ることに、おーちゃんは動揺していました。

東京のカサノバ 1【電子書籍】[ くらもちふさこ ]
改めて「東京のカサノバ」も読み返したのですが、ちい兄ちゃんはちゃんと思ってること口にしてくれるから分かりやすい!
兄に恋する妹、くらもちふさこ「東京のカサノバ」やっぱり素敵!
くらもちふさこ、大好きです!大御所漫画家なのに、絵柄は時代に合わせて少しずつ変えていて、でもずっとキレイでかわいい!登場する女の子たちは、直情的で素直で一途で、ユーモアがあってかわいい。そして、男性がとにかく魅力的!自然体で自分勝手なようで、優しくて一途。自分に近寄ってくる女たちとテキトーに笑いながら遊んでも、大事な女の子は1人だけ。くらもちふさこのマンガは一時期買えるものは全部持ってたのですが、...
陽大は少ないセリフや表情で読み取るしかありません。
ただ、やっぱり雛のことを好きだったわけじゃないんだろうなぁ、とは思いました。
何故なら陽大の中で、「陽向兄を絶望したまま逝かせたのは雛」となっているからです。
確かに雛が策略的に見せつけのために陽大にキスをしたせいですが、もし陽大が雛を好きだったなら、自分のことも責めると思うんです。
外野目線で考えたら、小学6年生の時に雛からキスされた時点で、陽大がハッキリと拒絶していれば良かったんですけどね…
それをせずに雛からアプローチされ続けて、予選の時に待ち合わせに誘われた穴場スポットに兄を行かせたことを気掛かりそうにしていましたが、アレは「兄のために、本当は雛のことが好きだけど譲った」と見えなくはありません。
しかし本戦の日の朝は、これから雛に会うことになると分かっていたはずなのに、花乃に流鏑馬の話を切り出そうとして顔を赤くしてモジモジしていました。
雛に「おまじないが効いたかな?」と言われた時も、ポカンとした顔をしていて、照れも無さそう。
雛からキスされる前、花乃の中では乗馬中に雛が現れたら腕の力を緩め、花乃を残して行ってしまった陽大に対して「雛を優先した」と思っていたけど、あの日は夕方に雛が来るのは分かっていて、でも陽大は学校帰りの花乃に馬を見せたかった。
あの乗馬の時の、花乃の髪のい草の匂いのやり取りも忘れていない。
雛はあくまでも、兄の好きな人であり、身内として大事な人。
だから傷付けたくなかっただけ。
陽大は優しい子だし、成長して冷たいこと言うようになっても根は優しいままのところが残っています。
なのに、雛は兄を傷付けた。
ただ、何でも雛の思惑通りに動くと思っているなら、自身もまた雛を好きになる可能性は無くはない。
その上で火事の時に雛からキスされて、それで兄が絶望したまま逝ったなら、それは雛を好きで拒まなかった自分のせいでもある、と陽大なら思いそうな気がするんです。
なのに雛だけを恨んでいるということは、「悪いのは放火犯と雛」と思っている、ということ。
この「陽大は自分のことを責めていない」という部分について、これまで考えていませんでした。
京都で「あの人の側で生きていくなら、強くならないと」と陽大が思うシーンの「あの人」の解釈は、ネットを見ると雛派と花乃派がいましたが、アレは流れ的に雛のことだと思います。
あの時点では、治ったら雛の家に行くのは分かってましたし、それが嫌で意識が無いフリをして京都に向かうタクシーの中では笑っていて、アレは「雛から離れられる」という計画通りになった安堵の笑いのはず。
読み返してみて思うのは、陽大は花乃と兄の話はしますが、両親の話はしませんね。
電車内で「忙しい両親に代わって伯母が」と言うのみ。
元々ほとんどお話内で両親は出て来ませんが、雛を拒絶し、その上大好きだった父の兄である伯父にもクールに接するのは、かなりの決意の固さが感じられます。
しかしアレだけ雛を頑なに拒絶していて、未だに雛が陽大のことを好きだと思っているなら、どんだけ自信過剰なんだよ…と大人としては思うかなぁ。
自分と顔がソックリで、しかも自分を恨んでる男を好きでい続けるのって、無理でしょ。
小6の時点で雛からキスされているし、「恋愛感情」というものは分かっていたはず。
「兄は雛のことが好き」
というのもお母さんから聞かされていたし、兄の態度を見ていて分かっていたし。
陽大は中1の時にも、女子と良い感じのところを田路や花乃に見られています。
花乃のことは、多分「花乃は僕の親友」と言ったら笑ってくれた時から、女の子として好きだったんだろうなと思っています。
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— くらもちふさこ展公式_弥生美術館_5月29日まで (@kuramochi_ten) January 23, 2022
その前の時点から「何か気に入った友達」という好意はあったでしょうが、初の三人立ちの後に花乃から抱きつかれたり、合宿で抱きついたり、の時にはもう恋心は芽生えていたのでは?
三人立ちの後花乃に抱きつかれた時、すぐに笑って無いんですよね。
呼びかけたら抱きつかれて、初めて花乃からハグされたのに何か心が動かされて、でも弓を持ってるから動けずにいたら兄が弓を受け取ってくれて抱き締め返せた。
京都の「かわいかったんだ…」が雛のことか花乃のことか、の解釈も割れますが、私はそこは「はなのは雛と違ってかわいげあるかなぁ」というのに対する言葉であり、あそこは封印しようとしていた花乃を思い出していたシーンかなと思うんですよね。
「あの時笑ってくれた花乃は、かわいかった」と繋がるのかなぁ、と。
だから最終回は、花乃にまた笑いかけてもらうために楼良を使って段取りをしていた、のかな?
幼い日の可愛かった雛の夢を見るのはその後ですし。
あの夢を見て伯母さんを思い出し、雛が伯母が亡くなるまではただただ可愛い女の子だったことを思い出して
「もう2度と雛のことを悪く言わないで」
になったのであれば、先の「かわいかったんだ」は雛とは別の話として解釈出来ると思います。
もちろん、可愛かった雛を思い出したからこそあの夢を見た可能性もありますが。
この時点でまだ陽大の中に雛への恋心があった記憶があるなら、やはり雛の共犯者として自分を責めたと思う。
先日花染神社のモデルになった神社へ行きましたが、やはり「花に染む」で思い出していたのは花乃と倭舞であり、そして再会した後見送りにあそこまで行ったことを思うと、そこはもう「やっぱり花乃に会いたい」が詰まっていたんだろうと解釈しました。
くらもちふさこ「花に染む」の花染神社のモデル、駒込天祖神社と駅周辺巡り
くらもちふさこ「花に染む」を毎日繰り返し読み続けているのですが、このマンガと「駅から5分」内の「花染」という地名は駒込がモデルとなっていると知りました。花に染む 1【電子書籍】[ くらもちふさこ ]ちょうど同僚が駒込に住んでいて、以前から良い街だと聞いていたため、聖地巡礼として行ってみることに!すでに行かれた方のブログもあり、「花染神社」は「駒込天祖神社」がそのまま描かれているというのを読んだため、とり...
手を握って「倭舞だ」と呟いていたけど、でも「倭舞」と「花乃」はセットではあるけれど、花乃を切り捨てる気にはやはりなれなかった。
陽大は花染町に着いてすぐ、花乃にメールしています。
それを花乃は「警告」「別れ」と受け止めていましたが、その後の空メールのやり取りは千場が雛に空メールを送ったこと、そして花乃宛の保存していたメールを見られたことにあるのでしょう。
「茎は葉っぱを落としながら成長する」
という千場の話を聞き、自身が「花乃を落として成長する」という暗喩と分かったはず。
しかし、執着が捨てられないからこそ「未練」のメールをしたら、空メールが返ってきた。
そして、花乃が雛と大会で会う日に空メールを返した。
花乃から空メールのやり取りを聞いて笑った雛は
「あぁ、私は返信しなかった空メールを、花乃ちゃんは送ったし、陽大も返したのね」
と分かり、自分が迷って何もしなかったことを思い出して笑ったのだと思います。
陽大は花乃の前では、意識が戻っているところを見せた。
でも自分の前では意識が無いフリをし続けた。
陽大が初めて、明確に「拒絶」を雛に見せたのです。
中学時代の陽大の話は「駅から5分」でもチラリとしか出てきませんが、元々品行方正なキャラで、そして兄がやっていたように生徒会長として過ごしていますね。
陽大の大好きだった父は「兄である花染神社の宮司」を立てる存在だった。
だから陽大も兄を立てて過ごしていた。
陽大は本当に、兄への未練に縛られて暮らすことになってしまっていましたが、それはきっと花乃にも言えることだったのでしょう。
そういう時間を共に過ごした2人に対して、楼良は「太刀打ちできない」と思うのも納得です。
陽大が「花乃のお陰で今ここで、こうして笑っている」と言った時に、花乃はそれを「命の恩人」という意味と解釈して「なんかそれ、あんま嬉しくない」と返しました。
ここはでも他の解釈もあります。
花染町に来てすぐにメールをし、空メールを送り合い、会いに来てくれた花乃に
「三年後に待ってるよ」
と返したということは、陽大はその日を楽しみに過ごせていたのでは?
どんな形であれまた会いたかったから、料理学校に言ってるのを内緒にしても、花染町に来てくれて嬉しかった。
花乃としては、あの時話した仮想世界が崩れた惨めさでカッコつかず、弓を止めたことも気まずくて言いたくなかったのでしょうが。
花乃が陽大のただの親友ではない、と思う根拠のもう一つに、楼良が田路と会った後
「ただのお友達というより、もっとも親しいご友人なのではないでしょうか?」
と言った、というのもあります。
その前の時点で、花乃が田路を連れ出しているのは楼良にも聞こえていたはず。
そして陽大は田路とは会わないのに、花乃とは一緒に寝泊まりするし、花乃も「親友」と公言している。
「もっとも親しい友人」が「親友」なのだから、「花乃より田路は下の仲」と思うものでは?
だからこそ楼良は、自分が陽大から弓を教わったのは「花乃のため」と察して、自分は勝てないと分かった。
とは言え…陽大が単純に恋愛感情として花乃を好きなら、普通恋人同士でしかしない足を絡ませて眠るなんてところで止めなそうですけどねー。
中学の合宿の時は、暑かったのもあり花乃は少し反り返ってましたが、花乃のベッドではピッタリ寄り添ってたし。
それでもあそこは、陽向への後悔と傷を抱える2人が癒し合うシーンでもあったと思います。
「1人でよく頑張ったな」と励ます花乃に対し、同じく頑張ってきた花乃を陽大が抱きしめた。
元々、陽大は子供の頃から愛着のある物に関してはテリトリー意識が強く、弓を触られたら激怒する子。
その激怒シーンは一度も出てきませんでしたが、あんなポワポワした男の子が激怒するって想像出来なかったレベルです。
成長後はガンガンに激怒する顔を見せていますけど…
雛の思惑のまま再会し、陽大と同じアパートに住み、雛と仲良くなる花乃。
自分はただ見守ってるのに、スルスルと横から花乃を助けて感謝されている雛は、陽大からしたらライバルみたいな存在?
でも花乃に弓を教えていたのは兄だから、後輩の自分は口出し出来ず、ずっと練習中の花乃の体配を見て覚えていた。
そういう意味ではやはり、陽向と雛は同じく「花乃の先輩」。
花乃は陽大の真似をして体配を変えようとしたら失敗して、その時「長い!」と注意された言葉が引き金になって早気になってしまった。
お菊先輩の言葉も呪いみたいになっている。
でもそういう悩みを、花乃は一切陽大に言わないんですよね。
くらもちふさこが「皆んな弓道をやってるから、メンタルが安定しているし、花乃がとにかく動かない」と苦心したと話していましたが、本当に彼女は心の中でアレコレ他人の気持ちを察して、考えて、ここぞという時しか言葉にしない。
いっそ陽大の方が、自分が思っていることを素直に花乃にだけ話しています。
「駅から5分」では入谷にだけ超能力のような力を見せていましたが、そんな風に気に入った相手にしか見せない領域、という中に入れているのは花乃と入谷だけですね。
花乃が料理学校に入学したことを話したあと、陽大の前で久々に弓を引こうとして矢を落とした時、陽大はまず
「ありがとう」
と言っていました。
陽大は花乃が料理学校に進んだことを知り、それは弓道も止めたということか確認するために「今日は俺が花乃の射を見たいんだ」と言ったのか分かりませんが、大学に落ちた時も花乃はめっちゃヘコんでいたのに、陽大にはシレッとしていたように見えた。
陽大との再会で調子を崩したことは、花乃にとっては「陽大の射が変わった影響」があるけど、それは陽大は知らないこと。
でもまた自分の側にいるために進学しようとしていたはずの花乃が、浪人中と嘘を吐いて料理学校に進路変更した理由を知りたくて、その心の中を見るために弓を引かせたのかなぁ。
で、本当は嫌だったろうに弱い部分を見せてくれた花乃に対しての「ありがとう」だった、とすると、あの時陽大は「自分の前で花乃は本心を見せられなくなっている」と思ったのかもしれない。
陽大自身はホント、アレして欲しい、コレしてあげる、を素直に花乃には言って、甘えたりふざけたり対等に接してるのになぁ。
生徒会の仲間達にも割とフランクに接してるけど、対等な扱いをしているのは花乃だけ、ですもんね。
自分は自分で自己完結して新たな世界を進んでいるのに、それで大事な花乃がブレてしまっているのなら、今度は自分が支えないと、と思いそう。
花乃に弓を教えた陽向と、早気を治すキッカケをくれた雛は、花乃にとって同じ立ち位置の存在。
「自分が花乃にしてあげられることは何だろう?」と考えた末に、陽向とも雛とも違う、自分だけが出来ることを陽大は花乃に与えた。
「花に染む」は陽大が過去の傷を乗り越えるお話、そして3人の女性達が彼に振り回されながら支えていく恋愛マンガ、と思っていましたが、
●花乃は陽向を助けられなかった罪悪感を抱えている。陽大を神のように崇め、かつ親友として支え、徐々に恋愛感情も持ち始めても、自分に自信が持てない内面の弱さもある。そして一人の弓道の選手として、自分内との戦いも抱えている
●楼良は現実にはいないと思っていた理想の王子様と出会えたことで、雛から礼節を、花乃から技術を、陽大から精神を学び、自分の中に作り上げていたお城から出て周囲に目を向けられるようになる
●雛は陽向への罪悪感、陽大から拒絶される辛さと花染神社を乗っ取られるという焦り、友達とも後輩達とも溶け込めない孤独感を乗り越える
という女性達の成長も描いていたんですね。
いやまぁ、それは普通に読んでも分かることだろ、という感じのことしか書けていないのですが、「陽向」という存在がかなり大きなモノだったのではないかと改めて思ったんです。
櫻井さんが「雛には彼氏がいるのかと思った」というのは、「陽大のことが好き」という意味だと思っていたのですが、それよりは「陽大を好きになり、陽向を傷付けた」ということで「陽向」が心の中を占めるようになっていた、から?
男として陽向を好きでは無かったけど、親族としては大切だったでしょうし。
あんな過去があったら、雛は「もう誰も好きになりたくない」と思っても仕方ないと思うんですよね。
そして、陽大もそんな風にもう異性というものを拒む状態になっているのでは?と思ったから、雛は自分が気に入った水野を充てがおうとした?
花乃はハッキリと「恋愛感情は無いです」と言い切っていて、合鍵を渡されてもどれだけ一緒にいても「親友」という枠から花乃が抜け出そうとしていないのは雛も分かったはず。
そういう二人の起爆剤として、陽向兄が陽大と花乃を見守っていたように、雛も二人を見守りながら前に進めようとした…はありそうな気がするんです。
陽大が過去を受け入れるためには花乃が必要、という部分もあったでしょうが。
だから高校時代と違い、雛は一貫して花乃に優しいんじゃないかな?
それまではちょっとライバル視するような冷たさがあったけど、花乃が引っ越してきてからは「本音を話せるお友達」「陽大のことを支えてくれる人」として、ほぼ身内状態で接してますよね。
私も最初全然分からなかったんですが、中学時代の大会前に緊張で話し続ける花乃を見て、陽向兄は「リラックスしてる」と言ったけど、陽大は「逆だな」と見抜いていました。
そういう弱いところを隠そうとする花乃のことを、陽大はずっと分かっていて、だから後ろから見守っていた。
「普通にしてるように見えて、やっぱり緊張してたんだな。花乃は変わらないな」
という「僕は花乃のそういうところ分かってるよ」のニヤニヤだったのかなぁと思います。
そういう気持ちを彼がちゃんと口にしていたら…雛にも花乃にも勘違いさせなかったのに…
作中で徐々に花乃は自分の陽大への恋心を自覚していくけど、でもそれに自分で蓋をしている。
自分は雛みたいにキレイじゃないし、楼良みたいに華奢でキラキラ可愛い女の子でもないし、陽大は弓道が上手くて優しくて美形の、神様みたいな存在だし。
陽大がどんなに好意を示しても、それは「普通の親友だから」と思っていて、だから陽大から「花乃と言い、普通を切望だ」と言われてしまう。
あれは「楼良は普通のカップルを望み、花乃は普通の親友を望む」と言いたかったんでしょうが、通じずに「は?私?」と花乃は何故自分の名前が出るのか分からないまま。
「普通の男の子」に見えないよう、かなり陽大の心の中は隠されてミステリアスにされていますが、実際には花乃も陽大からしたら内面が分かりづらい存在でしょうね。
何か全て見抜いてそうに見えるけど、雛も陽大も以外と気付いていない、言われないと分からない部分がある。
陽大にとっては、花乃も自分と一緒に陽向兄への罪悪感から解き放たれないといけない存在、だったのかな。
陽大自身はまだそこから抜け出せないから、「君にしか出来ない」と楼良に花乃を解放する役割を頼んだ。
陽大1人でも、雛がいても、3人共陽向に縛られているから、外野の楼良が必要だったのだろうと思います。
それこそ、外からやってきた王子様が楼良であり、眠っていた姫は陽大と花乃と雛だったのでしょう。
あと千場と楼良も、ある意味セットですね。
2人とも賢くて、察しているのに踏み込む。
勝手に動くことで陽大に影響を与える存在。
まぁスマホをゲットした千場が、雛の携帯に「会いたい」と送った意図は分かりませんが…
花乃のメールアドレスも暗記していたはずなのに、雛宛に送っているし。
どちらにしろ千場のアドレスから雛に送った形になるため、陽大→雛、というメッセージにはならないはず。
あれは千場→陽大に「会いたい」というメッセージで、雛に送れば陽大に伝わると思ったのかな?
結局それは楼良に届いていたわけですが。
あぁ、今更ながらに色んな人の考察を読もうとして探しても、ほとんど見つからない上に、各々考えていることが違うため、中々自分の納得のいく文章を読めず、1人で悶々とし続けてしまっていますねー。
例えば「雛は、陽大が花乃のことを好きだと気付いてたんじゃないか?」とか、気にしてる人をネットで見かけない!
あの火事の時のキスの再現、陽大は花乃に「頭突きだった」ということにしています。
でもその後、花乃は雛から
「このことは話したくないけど、でも陽大の口から花乃ちゃんに語られることは、まず無いわね」という前置きの元で説明されている。
陽大は花乃に、雛からキスされた話はしたくなかった。
でもそれを聞かされてきた上で「言いたいことは分かる。でも雛さんも子供だったし、同情する面も…」と花乃が庇ったら、陽大は怒った。
陽大は雛からキスされたことも、それを兄が見て絶望したことも本当は知られたく無かった。
でも、雛は「見られたかも、とは思っていた」と言っていたので、陽大もその可能性を考えたことはあったのでは?
雛のことが好きだったなら、「自分と雛が共犯と知られたく無かった」になるはず。
それを「雛1人の身勝手さ」と花乃に言い切るということは、雛と両想いだったならしないと思うんですよね。
陽大は花乃に言わないことはあるけど、自己保身のための嘘を吐くとは思えないので。
雛は「陽大は私からキスされたこと、それを陽向に見せつけた過去を花乃ちゃんに知られたくないと思っている」と思っている。
それはやはり…陽大が花乃を好きだと今は分かっているからなんじゃないかな?
もし陽大が自分も共犯だと思っていて、それで雛を拒絶し続けていたのなら、あんな風に花乃に甘え続けられないと思うんです。
ところで「茎は葉を落としながら成長する」って、そうだっけ?と気になって調べました。
普通茎の成長と共に、葉が増えていかない?
本来なら「桜」をイメージした話なのかな?と思ったけど、桜だと「茎」じゃなく「枝」のような…
深読みし過ぎかもしれませんが、茎が育って葉をつけ、花を咲かせ、実がなり、その後全てが枯れ落ちたあとそれがまた養分となって翌年成長する、ということでしょうか。
陽大は成長する中で一度全てを枯れ落とし、それを養分にして成長している、のかな?
陽大にとっての「花」は「花乃」であり「倭舞」。
状況的に仕方ないけど、皆んな「1番傷付いているのは陽大」というところに気を遣うため、花乃、雛、雛のお父さん、田路の心の傷をキチンと汲み取れないまま、今までダラダラと何回にも分けて書いていた気がします。
田路も朝礼で倒れたり、陽向の矢を射ったり、陽大を探したり、事件のことを悲しくて封印しようとしたり、陽大の為に御守りを買いに行ったり、色々してたのに、モブ的な感じで軽視しちゃってました。
最後の流鏑馬は、陽大の夢でもあり、田路の夢でもあった。
花乃は「陽大の夢が叶う」という意味で楽しみにしていたけど、陽大が倭舞を封印するのに付き合っていたから、直接「見たい」なんて言えない立場でした。
子供の時点でも、陽大ももったいぶっていたくせに、いざ「直接言ってほしかったな」と言われたら「花乃にしたら、もったいぶるほどのことじゃないだろ」と言われて「まぁね」と返している。
陽大の弓を射る姿や晴れの舞台なんて、普段ずっと一緒に全て共有出来ている花乃にとっては、特別なものじゃないだろ、と思い合っている。
「陽大と花乃」、「陽向と雛」、「楼良と田路」、がある意味同じ立ち位置だったのかな。
あと花乃と新保さんは、流鏑馬で陽大に惹かれた2人。
新保と楼良は、陽大の大切な人カテゴリに入らなかった2人。
しかし田路、合宿の時点で既に花乃のことを好きになり始めていたっほいですよね。
何度もそんな表情があるし、陽大が花乃に抱きついた時も気付いて衝撃受けていたし。
再会した花乃の家に呼ばれても顔を赤くして断るし、平然とベッドに潜り込む陽大との差よ…
くらもちふさこの好きな、片想い失恋キャラだったのかな?
陽大も田路が花乃のこと好きなのは、気付いていたのでしょうか。
「しばらく会ってないから」「…ケンカでもしたの?」「ケンカっていうか…なんもない。あーあ、男になりたい」
このやり取りの時点で、田路と花乃の間に何かあったのは気付いていたはず。
そもそも花乃と田路は、ケンカするようなタイプじゃないでしょう。
田路が花乃を怒らせたとしても、花乃が「ケンカ」という状況にするとは思えない。
しかし田路ももやしも陽大にとっては小学生の時からの友達なのに、花乃と遊ぶ時には引き合わせていない辺りが、陽大の独占欲を感じさせますね。
合宿の時点でまだ花乃が田路の名前を覚えていない、ということは、陽大は小学生の頃に花乃に友達の話はしなかった、ということ。
君の射を見て、田路も弓道を始めたのに。
ちなみにあの「がまん大会」の勝者は描かれていませんが(田路が射た弓がそれじゃないか説も見かけましたが、羽の形が違うようにも見えます)、最後に残っていたのは陽向と陽大と花乃。
陽大は賞品が雛からのものだと分かっていたので、欲しがっていた可能性があるようにも見えるシーンでした。
でもそれ以上に、雛からの矢を欲しがっているのに、寝ぼけて服を脱いでしまっている兄をじっと見つめ、花乃にバレたら脱ぐのを止めようとする。
この解釈は色々出来ると思いますが、私の好みとしては
「陽大は兄を勝たせたかったけど、せっかくの最後のイベントを長時間一緒に楽しみたかった。
花乃に男の子の意地で負けたく無かったし、兄と花乃の対決にもしたくなかった」
というのに加えて、雛が自分を好きなことへの罪悪感で花乃に震えながら抱きついたのかなと思っていますが、花乃のことが好きで抱きついたと解釈している人もいますね。
田路ともやしが学園祭に来たことを、陽大は花乃に話さなかった。
後夜祭に招き入れようとしても花乃は帰り、そして楼良と暮らすことにし、花乃が気付いているのが分かって着信を無視した後で、「今日泊めて」と言う…
ちょっと謎なのは「水野を泊めてくれたらもっと助かるけど、自分が泊まりに来る方が花乃には良い」と陽大が思っていたこと。
弓を教える為に泊めてるのは内緒のはずなのに、水野を花乃の部屋に泊まらせたらバレちゃうのでは?
あの時とにかく「雛には内緒」を強調したため、余計読者は混乱しますね。
花乃を驚かせるためなんだったら、水野を泊めてることも内緒にした方が良かったのに。
もやしは文化祭に行く前に花乃に着信を残していたのに、花乃は折り返さなかった、というのも謎。
結局、陽大と花乃の中では、田路ももやしも外野だからなのでしょうけど。
あと文化祭に田路たちが来たみたい、と陽大が花乃に話したら、花乃が対応に迷うと思ったのかな?
いやぁ…なんかそこまで陽大は考えなさそう…
これはかなりな妄想ですが、楼良が熱を出して陽大の帰りが遅くなった日、陽大が布団を大きいめくり上げて花乃に文句を言われたシーンは、あれは陽大なりの甘えだったのかなぁと思っています。
帰ったら花乃が不機嫌で、「起こした?」と聞いても「いや、起きてたけど」と返されただけ。
で、「メール見てくれた?」と、花壇荒らしの犯人が現れなかった報告メールをしたのに、返信は無かった。
だから「水野が熱出したから遅くなったんだ」と更に説明してるのに、「そか」としか返さない花乃の機嫌を変える為にふざけて布団を大きくめくり上げ、そして
「もうすぐ元に戻るから」
と、水野のことでヤキモキしている花乃を安心させるために言った、のかな?
でもその理由は「花乃のために内緒」。
これでもう十分、陽大が花乃に甘えてるのが分かるシーンですねー。恋愛脳的には。
水野を自宅に招いたのは、体配を叩き込む場が他に無かったのと、花乃を心配させず、かつ気を引く気もあったのかな。
と書いていくと、陽大って…自信満々のイヤな男…
花乃も「どうせ陽大は水乃に本気にならない」と思っていたから、理由も聞かずに陽大に合鍵を渡して泊まらせていたんでしょうけど、水野が陽大のベッドを使わなかったことを聞いた時には、「水野が一緒に寝たがってた陽大と自分は、一線は越えなくても一緒に寝ていた」ということに申し訳ない気持ちになっただろうに。
だから「今日はこっちで寝ていくか?」と陽大に聞かれても断った。
ここがまた、陽大の花乃の気持ちをちゃんと掴めていないところですが…
まぁもう、「陽向のこと」を花乃も乗り越えてからでないと、陽大と花乃は先に進めない、ということだったのかも。
そもそも「恋愛」で過去の傷を全て回復出来ない、そんな簡単に無差別事件の被害者は過去を乗り越えられないもの、なのかもしれないし。
新たな出会いをキッカケに乗り越えるパターンもあるから、そういう意味では楼良とくっつくもあり得たんだけど、倭舞に戻る陽大を支えるキャラでは無いかなと。
雛のお母さんみたいに浮世離れした人が宮司の奥さんになる、ということもあったけど、陽大と一緒に神社でお勤め出来る女性は花乃だと思うんですよね。
あ、そういえば匿名掲示板で存在を知った、楼良の番外編「はる風の誘惑」を読むために「駅から5分」の文庫版1巻を買いました。
駅から5分 1 (集英社文庫(コミック版)) 文庫
掲示板では「アレは現実」「いやアレは夢」と意見が分かれていた、楼良が陽大とフォークダンスを踊るシーンの入った4ページの短編でしたが…
あのフォークダンス、どこをどう読んでも、楼良の夢でしょ⁉︎
それを現実のシーンだと思い込むような人もマンガを読んでいる、という現実に衝撃を受けました。
楼良が文化祭準備で帰りの遅い陽大を社務所で待っていて、かっこちゃんが持っている陽大の秋冬の制服を見て「王子服」と思う。
で、文化祭でフォークダンスがあるという話を聞き、陽大とフォークダンスをしてみたいという思いから夢を見る。
下を向いて寝ているところを「もう終電無くなりますよ」とかっこちゃんに起こされ、そのリベンジ的な気持ちで朝早く陽大に会いに行き、腕を組もうとしたら
「ダメ」
と断られる、というお話でしたから…
実際のフォークダンスシーンの陽大は袴姿だったのに、夢の中では制服姿。
そのシーンの色は淡くて枠の形も違う。
掲示板の中でもそれを指摘して「夢だよ」と説明してあげている人たちがいましたが、そんな説明を受けないと分からないこともあるの…?
なんかこう、「こういう描き方だとこういうシーン」という解説みたいなものって、マンガにはいらないと思っていたんですが、匿名掲示板に書かれたことを鵜呑みにする危険性を実感しましたね。
さすがにそこまで誤解する読者向けに、漫画家が気を配るのは酷だわ…
ただでさえ「花に染む」は解釈が割れるお話ですが、そういう誤読が積み重なると、ますます連載当時に花乃エンド派と楼良エンド派が割れて口論になったのも納得です。
「どちらのファンもちょっとガッカリする結末」という作者の言葉もまた掲示板が荒れるキッカケになっていましたが、どうなのかなぁ。
そもそも「恋愛」というものが「陽向を傷付けたもの」という側面もあるため、手放しに「陽大と花乃は両思い」に出来なかったのは分かります。
それで解決出来るほど、陽大の心の傷は浅くないから。
花乃の女性としてのコンプレックスは、多分まだ解けてはいないラストだったんじゃないかと思います。
とりあえず流鏑馬の場に田路を連れて来た時には、手を繋ぐのではなく手首を掴んでいたので、田路と花乃が出来上がったわけではない、はず。
あれはあくまでも、田路と陽大の和解、それに尽力した花乃、のシーンでしょう。
楼良や新保さんと違い、関係者席まで入り込めているようなので、陽大が田路と花乃を待っていたのは確か。
それを幼馴染セットと解釈する人もいましたが、やはり陽大にとっては「花乃は手放せなかった唯一の人」で、「田路は切り捨てようとした幼馴染」のため、あのラストだけでは「陽大が倭舞に戻り、夢だった流鏑馬を実現出来た」しか分からない終わりで、それが余韻を残して良いのだと思います。
もうねー、色々考察というか、二次創作したくなる余白がいっぱいありますね!
でも探してもpixivとかでも全然見当たらないんです…
自分なりの妄想をポツポツとテキスト化してはいるけど、それをあのくらもちふさこの洗練された絵にして真似して描き起こせないため、モヤモヤ。
模写なら出来るけど、二次創作はなぁ…
「くらもち本」みたいなアンソロジーも、内容はかなり賛否両論でしたしね。
結局、陽大と花乃が恋愛関係になるには、陽大がハッキリ言わないと無理だと思います。
「東京のカサノバ」のちいちゃんみたいに、ハッキリと言ってくれたら良いのに…
お互いの部屋の合鍵持ってて、一緒に眠って、花乃が料理する横に立ってお椀を受け取るとか、もういつ出来上がってもおかしくないのにねー。
花乃の女としてのコンプレックスを陽大が溶かせば良いのに、「腕っ節」とか言うから…
楼良には「荷物上げてやろうか?」と聞いてたけど、花乃相手なら「貸して」と言って率先して上げてあげちゃうだろうに。
って、そもそも現実には陽大みたいな男性どころか、花乃や雛や楼良みたいな人はいないけどねっ⁉︎
久々にどっぷり「少女マンガ」を読んで、いやぁ何だかもうキュンキュンを思い出してウットリする中年そのものになってますよー…。
ちなみに花染神社のモデルになった神社に行った話を駒込に住む同僚にしたら
「あー、土日あたりに聖地巡礼しにこっち来てるかもなーと思いながら、自宅にいたわ」
と言われました。で、
「なんかさー、やっぱりマンガと違って、社務所とかボロっとしてたんだよねぇ。
でもあの中でキャラが暮らしてる設定なんだなーと思って」と言ったら
「あのな、『マンガと違って』じゃなくて、『マンガが現実と違う』だかんな⁉︎」
と現実を突き付けられました…
「そうだけど!でもこっちは先にマンガで知ったんだもん!」
というやり取りを聞いていた周囲の人が、声をあげて笑っていて
「私ら…いい歳して会社で何話してんだ…」
とちょっと恥ずかしかったです。
私は「花に染む」は電子書籍しかなく、「駅から5分」は文庫版も買ったのでそちらを貸したのですが、そのままハマって「花に染む」も読んで欲しいけど…
んー、あんまり少女マンガ好きなタイプじゃないから無理かも…
他のお友達は、オススメしたら「くらもちふさこ展」に行き、久々に読み返したくなったから図書館で借りて読むつもりだそうです!
そこ「花に染む」無いんですけどね…
あー、誰かと話したい、けど、楼良エンド派とかだと意見が割れて揉めそうだし…
そもそも、今更SNSでこんなに長々とぶつぶつ言ってるの、私くらいしかいませんね。
でも何だか「陽向」という存在を改めて考えてみて、更に腑に落ちた気がします。
ただ陽大が誰かとくっつくだけじゃダメだったのも分かりますね。
そして、陽大が「花乃が笑わなくなったのは自分のせいだ」と思ったのも、何となく分かりました。
元々花乃は笑わない子だったけど、より一層陽大には陽向を救えなかった罪悪感を持って、前に進めなかったのかも。
が、この法則で行くと「陽大は何で罪悪感を持っていないんだ?」になっちゃうんですけどね。
あの時はただただ、家族を失った悲しみだけを背負っていて、そこから気持ちを切り離して花染町で暮らしているから。
なのに、一番倭舞の象徴になる花乃は受け入れ、田路には「二度と会わない」と言った。
千場にも楼良にも「二度と会わない」って言い放ってたけど…そんな風に「他人から会いたいと思われる存在」と自分で自分のことを思っているなんて、他人から拒絶されたことの無い人間の発想だよ…陽大…
花乃にはそんなこと言わないくせにー。
と色々考えさせられながら読み耽ってしまいました。
※と、ここまで書いて一旦アップし、また一から読み直し出したのですが…
ふとラストの「負けたって思った」という花乃と楼良の上に重なるセリフは、
花乃が楼良に負けた(目指していた陽大の体配を水野が完コピ出来ていた)
ではなくて、「陽大に負けた」という解釈も出来るのでは?と思い始めました。
花乃は陽大に憧れて追い求めていながらも、同志の気持ちでいて、彼を守っているつもりだった。
2巻の最初で、「弓を続けろ」と言われなかったことにガッカリしていましたよね。
結構無理矢理な解釈なのですが、
花乃が陽大を想う以上に、陽大が花乃のことを想っていた
という意味で、「陽大に負けた」という考え方もある気がしたんです。
花乃は陽大の射を見て、真似しようとして早気になった、という挫折を経て、雛のお陰もあり自分の射を取り戻しています。
そういう意味ではシンプルに、陽大の完コピが出来た楼良に「負けた」もあり得るのですが、結果を見ると楼良はまだ技術が足りずに矢を外してもいます。
あの背中に陽大を感じるのが花乃にとって大事なのは、彼の一糸乱れぬ呼吸を感じられるから。
もちろん技術的には陽大の方が花乃より上なのは明確だし、雛も花乃より上の存在。
ただ、花乃は陽大の体配を身に付けようとしたことは無いんですよね。
「引き分けから会までの間」
は真似しようとしていたけど、楼良を通して感じていたのはその手前の「立ち上がり」まで。
そして、今思えば再会した時と三人立ちの時で陽大の射が若干違ったのは、元々三人立ちの時には陽大が花乃の体配に合わせていたから。
なので花乃が前にいない時の体配は、本来の陽大のペースとちょっと違っていたのかも。
「陽大の一糸乱れぬ息づかいは、私にしかわからない」
これは「花乃のペースに合わせたもの」だから、花乃にしか分からないのかも。
高校で一緒に部活をやってる人達なら、陽大の息づかいを分かる可能性はありますし。
1人の選手としては、他人の真似ではなく自分のペースが大事なはず。
花乃の精神的な弱さを見抜き、それを支えようと画策した陽大の気持ちは嬉しい。
でもそれは、「陽大に守られたい」ではなく「守りたい」という目で見ていた花乃からしたら、完膚なきまでに陽大の気持ちの強さを見せつけられたことにもなる。
恋愛目線で「楼良に負けた」という解釈をする人もいますが、それは違うと私は思っています。
だって完全にアレは花乃のために陽大が仕組んだことで、それだけ自分が大事にされていることが分かるシーンだし、元々花乃は恋愛面で楼良に勝てると思っていなかった。
弓もカケも陽大から受け取っている楼良を見て落ち込んでいましたしね。
楼良は射終えた後、花乃が陽大の元に駆けて行くのを見送っている。
それは自分が、陽大の気持ちを花乃に伝えるための存在であり、その役目を果たし終えたと思っているからのはず。
花乃が陽大を想うより、陽大は自分を想ってくれていた、という意味の「負けた」という解釈は無理があるかなぁ。
それだと、あのシーンで花乃は陽大の体から手を離していて、陽大は片手で花乃の背中を抱いている、という絵に合う気もするのですが。
花乃が陽大に弓で勝ちたいとは思っていなかったから、そこは精神面での話だと思うけど…
憧れていて、でも同志で対等な存在だとも思っていた幼馴染の陽大が、支えてやろうと思っていた陽大が、自分を支えてくれていた。
一方的に陽大のイメージに支えられているつもりだったけど、それを陽大も分かっていた、とあの時初めて花乃は自覚したはず。
「あぁ…守られていたのは私の方だったんだ」
というのは、「男になりたい」という対等さを目指していた花乃からしたら、陽大に圧倒的に負けたと思うという解釈もあるのかなぁ、という気がしました。
そもそも花乃の性格上「くやしい」なんて今までなら陽大に言わなかったと思うんです。
特に「水野に対して、くやしい」という気持ちを言うとは思えない。
大学に落ちた時は泣きを入れたけど、陽大にはシレッとして見えた。
早気に悩んでいたことも長らく言わなかった。
新保さんとの三人立ちが嫌なことも口にしなかった。
その花乃が、陽大に対して「うれしいけど、くやしい」という気持ちを抱き、それを面と向かって言われても笑顔で受け止める、という時点で、やっと花乃が中学生の時に
「流鏑馬のこと、直接聞きたかったな」
と言えたように、本音を言えるようになったのかなぁ、と…
あの時も変な言い方、と自分でも思うくらい遠回しな言い方にしてしまっていたけど、素直に初めての三人立ちの時抱きついたように、陽大に自分をまた出せるようになれた、のかも?
考えすぎ…ですかね…
とりあえず読み返してみると、花乃が「くやしい」と感じた時が2回ありました。
1つは、陽大に進路変更をしたことを伝えたらあっさり受け入れられ、「同志のつもりだったのに」と思った時。
もう1つは、早気に悩んでいた時にお菊先輩達なら抜かれるようになり、それを「くやしい」と思う自分が醜く感じて弓道を止めた時。
彼女が「くやしい」と思うのは、自分の弓道に対する気持ちの上でのこと。
そう思うと、「水野の方が陽大に近い弓を射れていた」という悔しさがあってもおかしくないけど、花乃は陽大そのもののコピーをしたかったわけでは無いはずだし、技術面の愚痴を陽大にあんな風に言うかなぁ、と思えてしまいました。
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