三浦しをん「エレジーは流れない」ネタバレ感想~ベタな青春の浅い物語で残念

2022年05月12日
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三浦しをんは爆笑エッセイからハマり、小説ではまた違うシリアスなノリになるところが魅力的なため、既刊はほぼほぼ全て読んでいます。

電子書籍をチェックしていたら、この「エレジーは流れない」が発売されていたことに気付いたため買ってみました。


エレジーは流れない

映画化やドラマ化された作品も多いですが、作品によってハマる読者層が変わるのも特徴的なのでは?

私の中で好きな作品達は、仄かに同性愛の関係性があったり、トラウマや執着心や残酷さが漂っているタイプの設定のもの、ですね。

一方で、青春寄りのモノはちょっと合わないかなと思っていました。

キャラクター達の性格がテンプレ通りな感じで、ご都合主義に感じるものもあって…

もちろんその中には、作者が取材した色々な専門知識の説明が簡潔ながらも独特の文体で表現されていて、「為になるなぁ」という部分もあり、「愛なき世界」は興味深かったです。

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でも「ののはな通信」の方が、少女の恋愛感情がドロリとしていく流れが怖くて良かったなぁ。


ののはな通信 [ 三浦 しをん ]

「風が強く吹いている」は、実はそんなに好みではありませんでした。

私自身が全くスポーツに興味が無いないので、これはもう好みの問題ですね。

三浦しをん的に、社会問題とか地方再建に関心があるのかなぁと思うことはこれまでもありました。

なのでこの「エレジーは流れない」は、以前調べて本にしていた土偶等の出土品と、熱海や小田原のような観光地が寂れつつも魅力があることへの喚起に加え、

「若い高校生にやりたいことが無くても、別に良いじゃない?」

「観光地の商店街の人の温かみって良いよね」


というメッセージが込められていたのかと思います。

実際にそういう旨のコメントを出されていたようですし。

エレジーは流れない_三浦しをん_コメント

そこに更に三浦しをんなりのスパイスとして、

「主人公には母親が2人いる」
「穏やかで大人しい優しい少年が、友人の才能に嫉妬心を抱く自分を恥じる」


というのが加えられていた、のかな?

私としてはこの「母親が2人いる」という設定が分かった時は

「お!つまらないかと思っていたけど、ここから一気に面白くなりそう!」

とワクワクしました。

普段一緒に暮らしているのは、経営危うい土産物屋を営む能天気なおふくろ。

でも1ヶ月の内3週目の1週間だけは、高級住宅地にあるお金持ち社長のお母さんの家に行く生活。

お母さんの家には住み込みの青年慎一が住んでいて、ただの管理人なのか、お母さんの彼氏なのかは謎。

そして、どちらの母親が自分を産んだのか、何故母親が2人いるのか、父親は誰なのか、主人公は誰にも聞かないまま。

それが分かるまでは、ただただ仲良しの高校の友達と幼馴染とダラダラ日々を過ごすだけの描写だったため、全くテーマが掴めませんでした。


脳筋お馬鹿な友達2人は、片方は彼女持ち、片方は勉強出来ない能天気だけど手先が器用、というキャラの差はあるけど、ほぼ同一キャラにも思えてしまいます。

おっとりした幼馴染も、美大目指してるということ以外は典型的な良い子。

そして、肝心の主人公の怜は…特に何の特徴もありません。

そこそこ勉強ができ、空気を読んで土産物屋の手伝いをしたり、お母さんと慎一と過ごし、友人と過ごし、「特に将来やりたいこととか無いなぁ」とぼんやり思っているだけ。

ただ、普通に考えたらこの登場人物達の気遣い合いはエスパー並で、ほとんど直接本音を話さなくても察しあえている上に、踏み込まないところが今時、なのかな?

が、結局最後まで読んだ結果…

え!?せっかくの設定、こんなにフンワリと触れただけで終わり!?

とビックリしました…

父親はお母さんの元夫で、既婚だということを隠して手を出したおふくろが妊娠し、怜のことは2人が母親として育てることになった、という経緯。

不倫が分かった時点で手切れ金を渡されて叩き出された父親がフラッと怜に会いに来ますが、それも商店街の皆んながピリピリと警戒していた割に

「単に一度息子の顔を見てみたかっただけ」

というだけで、少し怜と話したら終わり。

お母さんと慎一の関係もハッキリしないまま。

一番の事件であろう、寂れた餅湯博物館から縄文式土器が盗まれた、というのと父親が関わるのかと一瞬思いましたが、そんなこともありませんでした。

縄文式土器の泥棒たち3人組もアッサリと捕まえてお終い。

え??と思ってAmazonのレビューを読みましたが、高評価の星5の割合が多いとは言え投稿者数自体が少なく、そして星の数が少ない人は私同様「え?」となっていましたね。
三浦しをんなりの心情を察すると、そういうささやかな日常を描きたかったんだろうと思います。

まぁ母親が2人いるとか、高校生が泥棒を捕まえるとか、修学旅行先の唐津で出会った高校生たちが遊びに来るとか、それ自体は結構稀なケース、というか本当に起こったら結構な大事だと思うのですが、それさえサラリと書いていました。

何があってもフラッと柳のように場に合わせつつ、ボンヤリとした不安を抱え、でも目の前のことをきちんとやる主人公の怜は、実際にいたらすごくスペック高い気がしますが。

2人の母親はそれぞれがキチンと怜を愛していて、それを怜も実感する。

寂れた商店街だけど、皆んなが顔馴染みで支え合っている。

そういうのが今の世の中では、いっそ沁みると思った、のかなぁ。

ただ、三浦しをんもオタクだから分かっていると思うけど、その手のアニメは多いですよね?

地域おこしのアニメってそういうのよくあるし。

「氷菓」のように、飄々としている主人公が田舎で謎解きをする内に色々考えていく、というのも近いかも。


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これも一見謎解きだけど、起こること自体は規模の小さいものだし。

アニメは絵や声優の力もあって、それでも淡々とした美しさというのがあるものですが、小説でそれをやるとフンワリとしすぎる気がしました。

些細なシーンの描写はさすが三浦しをん、文章がすごく美しくて魅力的なのですが、そういう部分がほんの少ししかありません。

ラストが一番三浦しをんの良さが発揮された描写力でしたが、でもそれでも途中のストーリーが空中分解しているような感じがして、うーん…となったかな。

もしかしたら、これを映画化したら良い感じになりそう、と思って書いたのかな?

うーん…でもそれにしても、「愛なき世界」や「ののはな通信」の方が映像で観たいかも。

どのキャラもなんかこう…本当にテンプレ通りすぎて、もっと先が気になる感じがしなかったんですよね。

三浦しをんは何だかんだ言って郊外とは言え町田出身のため、偶に行く田舎の良さに対して憧れがあるのかな?

でもそれって地方出身者にはピンと来ない感覚なんです。

そしてこの年齢になると「田舎は偶に遊びに行くくらいが丁度よい」と思います。(人によりますが)

物語の最後に「進学で東京に行く派」と「一生地元で過ごすつもり派」で分かれますが、そういうのももう私にはピンときません。

商店街を描くにしても、それはもう「ハチミツとクローバー」でも見た世界。

せめて母親2人のことをもう少し深堀りするとか、泥棒のことも経緯を盛り込むとか、出来なかったのかなぁ。

三浦しをんはもうブログを頻繁に更新したりしていないし、日常のエッセイ本も出ていないので、どう思っているのか分かりません。

SNSで日常を綴ったりもしていないし、昔からのお友達のことを赤裸々に色々書いているのを楽しんでいた身としては寂しいなぁ。

同世代の女性として、三浦しをんのことはすごく身近に感じつつ憧れていて、作品も生活も好きだったのに、ちょっと今作にはガッカリしました。

実際にリアルな高校生がこれを読んでどう思うかは分かりません。

でも共感出来るのは観光地に住んでる子くらいなのでは…

「将来特にやりたいことはない」なんて、よくある話だし…

という残念なネタバレ感想になってしまいましたが、コレはコレで好きだという方がいるなら意見を伺いたいと思います。

私としては、またオタクが喜ぶ魅力の詰まった作品を読ませて頂きたいです!
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