「高畑勲展」感想~「二ノ国」に足りないのは情熱か知性か予算か?
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高畑勲展-日本のアニメーションに遺したもの
ジブリ出身の百瀬監督にボロボロにされるのを見越して、本家ジブリの良質なアニメーションに癒されようという算段です。
高畑勲の作品、賛否分かれる傾向にありますけど、私は好きなんですよね。
全部観てきたわけではないけど、「火垂るの墓」と「かぐや姫の物語」は最高傑作だと思う。
「おもひでぽろぽろ」も素敵。
ジブリだと「風立ちぬ」も好きなんですが、こちらも公開時に周囲の若い子が「つまんない」と言っていて、おっおぅ…となりました。
高畑勲の作品は、心理描写が丁寧なところが好きです。
ので「崖の上のポニョ」とか「もののけ姫」は、感情の変化に納得いかない部分があって、ハマれなかった、という私の趣味嗜好を先に書いておきます。
この時点で、「お前とは価値観合わないわ」って人もいるでしょう。
実際、学生時代に周囲にジブリファンはたくさんいたけど、皆んな「カリオストロ最高!」系だったし。
「高畑勲、好きなんだよね」
と話すと怪訝な顔をされたものです…。
でも良いの、私はこの、二ノ国でボロボロにされた心を、高畑勲に癒してもらうの!

感想を一言でまとめると、「最高」でした。
いやーもう、入り口の高畑勲と宮崎駿(煙草持ってる)の笑顔のツーショット写真が飾られてる時点で、胸熱で泣きそうになりましたね。
ただでさえ、「かぐや姫の物語」の映像や音楽でも泣きそうになってるのに…
うわー宮さん!!!!
ってなるこの気持ちを抑えて、高畑勲の年表一覧を見て気付きました。
「あれ?このアニメ…『なつぞら』に出てたやつじゃね?」
いや、「なつぞら」で染谷将太が演じてる役のモデルが宮崎駿なのは知ってたんですよ。
でも、なつの旦那になる一休さんのモデルが高畑勲だってことに、私は馬鹿だから気付いてなかったのです…
そうか、それで音声ガイドが中川大志だったんだ…!
中川大志インタビュー 『高畑勲展ー日本のアニメーションに遺したもの』音声ガイド収録で感じたこと | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス https://t.co/g26gHDanyF
— 高畑勲展―日本のアニメーションに遺したもの (@takahata_ten) June 28, 2019
で、この「高畑勲展」は、「なつぞら」ファンが胸熱になるような資料もたくさん展示していました。
【美術館】 #高畑勲展 高畑さんの初演出(監督)となった「太陽の王子 ホルスの大冒険」。悪魔の妹としての冷淡な嘲笑と、人間の娘としての苦悩の微笑が同居するヒロイン・ヒルダをどう描くか…。森康二さん、奥山玲子さん、小田部羊一さんが描くヒルダはぜひ会場でご覧ください! pic.twitter.com/MWXSWWuJJQ
— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) August 1, 2019
女優さんが衣装を身に付け、メイクしてカメラテストし、それをアニメ絵にしているところとかも。
今回の展示でまず驚いたのは、登場人物の感情の変化を時系列に数値化し、スタッフ全員にシーンのイメージ共有していた時の資料でした。
「感情のバロメーター」を数値化すれば、どのシーンで誰にどのくらい喜怒哀楽を表現させれば良いか分かる、というその発想がすごいでしょ!
年表のような1枚のシートにキャラの感情、その起伏が山線になって書き込まれていました。
他にもビッシリと手書きされたメモ、構成、指示書などなど、綿密に構成しながらアニメーションを制作していたことが分かります。
【美術館】 #高畑勲展 東映動画に入って間もない時期、まだ20代の高畑が記した「竹取物語」漫画映画化の企画メモまで残っているとは!自らボツにしたアイディアをつづった数枚の紙片を、なぜ大切に保管していたのでしょうか。→つづく pic.twitter.com/ARMDMoaAiC
— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) July 19, 2019
こうやってスタッフ皆んなでシーンの共有をし、アイデアを出し合えるようにした、というその心意気に感服!
また、高畑勲が影響を受けたフランスのアニメーション動画紹介もありました。
「アニメーションだから、実際には冷淡なシーンも描くことができる」
というようなことを話しているインタビュー動画を観て
「そうだ、アニメーションは実写とは違う、だからこそ描けるものがあるんだ」
ということを久々に考えました。
今のゲームとかCGに慣れた人だと、この言葉で受取るイメージが違うかもしれません。
アニメーションは空想の世界をリアルに描くためのものではなく、伝えたいメッセージを線や色や構図で観せるもの。
その絵のタッチやカメラワークは、単に視聴者の「好み」で判断されるものでは無かったはず。
コミカルに動くキャラクターの動きに、
「あれ?こういうアニメーションならではの動き、私、いつから観てなかった?」
と思いました。
これ授業で観てハリネズミの可愛さに悶絶したな~。
ユーリー・ノルシュテイン作品集 2K修復版 [Blu-ray]
私は学生時代にロシアとかチェコのアニメーションを観てきているのですが、こういうのって今、世間的な認知度はどのくらいあるんでしょうか?
話はイマイチわかんないけどオシャレ、絵が可愛いって印象のものも多かったけど、でも「天気の子」みたいな絵のアニメも、元々はこういうアニメーションの流れがあって出来ている世界なんですよね、そういえば。
ディズニーの流れももちろんあるけど、そこから派生した映像美もあって、って語れるほど私も詳しくないけど。
高畑勲は自分で絵を描かない分、とても綿密に人物の感情を把握し、絵に落とし込んでいました。
次にうわーっと思ったのは「おもひでぽろぽろ」の口パクに関する指示書です。
「セリフの口の動きに忠実にするのではなく、『山形編』は口の動きを4枚にして下さい。(思い出編は今まで通り3枚)
このような口の動きにすると(あいうえお、のような口の動きの例の絵が描かれている)、邦画ではオーバーアクションになります。
但し例外のシーンもあるため、迷ったら相談してください」
と書かれていて、他にもキャラクターに合わせた口の動きの指示がありました。
また、声優として決定していた今井美樹、柳葉敏郎のスケッチがあり、彼らの表情をアニメ側に落とし込んでいたそうです。
【美術館】#高畑勲展 1991年の今日(7/20)は「#おもひでぽろぽろ 」の公開日。高畑監督は過去と現在で絵のスタイルを変え、新たな表現を追及しました。会場では #男鹿和雄 さんによる背景美術などを紹介しています。
— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) July 19, 2019
「分数の割り算がすんなりできた人はその後の人生もすんなりいくらしいのよ」 pic.twitter.com/gvMvs8fLcD
…ちょっと待て…?
そうだ、これは「声優に合わせてアニメーションを作っている」んだ…
「二ノ国」のように「俳優の人気ありき」で、作画と声を別々に捉えて作っていない…!
もちろん、この高畑勲展では、「二ノ国」の百瀬義行監督の作画も展示されています。
【美術館】#高畑勲展 \ソイヤッサ!/
— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) July 21, 2019
「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994年)。#百瀬義行 さんと #大塚伸治 さんによるタヌキの生態と化け学(バケガク)を描いた大量のイメージボードは、タヌキの真剣さに比べて人間にはあまり効果のない「しょぼい感じ」を目指したといいます。https://t.co/m9vFjD5Q0z pic.twitter.com/9N869UcKLS
百瀬監督…どうして、こんなに丁寧にアニメーションを作っていた巨匠と共に仕事をしてきているのに、あんなアニメに関わってしまったの…?
ねぇねぇ、「二ノ国」の背景の絵はキレイだった、とか、そういう問題じゃないですよね?
ジブリはそういう見た目のクオリティだけ考えてアニメーションを作ってきてはいないから。
【美術館】#高畑勲展 「ホーホケキョ となりの山田くん」(1999年)。余白とラフな線を活かした水彩画風の絵をフルデジタルで実現する試みに挑戦した作品。会場では映像と着彩ボードを展示しています。ちなみに、「山田くん」はジブリ作品で唯一 ニューヨーク近代美術館に収蔵されています🌟 pic.twitter.com/939kdOOxaC
— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) July 24, 2019
こんな風に、実験的に描き方を変えて、表現方法を模索していたじゃないですか…
でも今アニメ映画を観ている人たちは、そんな部分に注視しているとは思えません。
CGのクオリティとか、描き込み具合とか、キャラデザのことばかり話している。
え…なんか、全然受け継がれていなくない??
なんで?何が悪いの?制作陣の熱意?知性?予算?それとも視聴者側の感性?
「好きな俳優が声優やっているから映画館に行く」だ?
「推しが声優やっているから、酷評をSNSに書くな」だ?
はぁ?????そういうもんじゃないだろ、アニメーションってやつはよぅ!
って思ってしまう私がいるのですが、でもそれは私が元々は絵を描く側の人間だからであって、世間は昔からそうだったのかもしれないし、違ったのかもしれないし…わからないけど…
でも、制作陣からこのスピリットが無くなってたら、高畑勲が遺せてないってことになっちゃうよ…
アニメーションに何を求めるかは人それぞれだし、そこは自由だと思います。
ただ百瀬監督は、この高畑勲と仕事をしてきた人なのだから、ジブリのスピリットを昇華させていって欲しかった。
退化してどーすんの…
って思うけど、実際クリエイティブな世界って、昔のほうが良いもの多いんですよね…
巨匠と呼ばれるグラフィックデザイナー、昔はたくさんいたけど、今は全然いないもの。
何で?って聞かれたら、「世間に求められていないから?」って思ってしまいます。
作り手が拘っても、受け手がそれを望んでいなければ、費用対効果が悪い。
結局ジブリは、「アルプスの少女ハイジ」とか名作を生み出せる時代に育った感性で出来たものがあるよねー。
ハイジの人気というか認知度はすごいですね。
オープニングの絵、ハイジの動き、表情、すごく可愛くて良かったなぁ。
撮影可だったジオラマもかわいい!

ハイジとペーターだけでなく、細かく色んな所にポイントがあって楽しい~

電車も通ってるんですよ。
色々な気持ちが脳内と胸中を駆け巡りましたが、最後に「かぐや姫の物語」の絵を観て、動画を観て、あああああーと胸が一杯になりました。
かぐや姫の物語 [DVD]
わたし、ほんっっっっっっと、この映画好き!というか思い出すだけで胸が痛すぎる!
「アニメの絵が嫌い。
せっかく線の絵には勢いがあるのに、それをブラッシュアップしていく過程で、勢いが無くなってしまうから」
という理由で、線で描くことに拘り、製作日数を膨大にかけ、赤字になったと言われている映画ですが…
女性の自立をこんなに悲しく描いた映画、そうそう無いでしょ…(そしてこの世では姫は自立させてもらえなかった…)
この展示は、ちょっと1回行っただけでは受け止めきれなかった部分があります。
宮崎駿と一緒に作ってきたアニメーションの資料も素晴らしかったので、ボリューミー過ぎたわ…
「火垂るの墓」では、それまでのアニメの絵よりも彩度を落として、より印象的に戦争の残酷さを描くための色設計をした、とか、もうちょっと軽くササッとは観られない資料ばかりなんですもん。
「じゃりン子チエ」では実際にロケハンした大阪の街の背景と、人物の絵が乖離しないように描き方を考えた、とか、そういう今のアニメーションでもちゃんと出来ていないことを、当時こんなに考えて実験していたのね!っと思うと…うわーっとなります。
我が家は「じゃりン子チエ」の原作漫画が全巻あったので、キャラの絵もほっこりしながら観られたし…
ということで、自分勝手にゴリ押しします。
「まだ高畑勲展に行ってないアニメ好きは、是非行ってきて!」と。
好みは分かれるかもしれないけど、知識として、アニメの歴史を学ぶのも良いはず。
私はもう一度、今度は誰か誘って行ってみようと思います。
一人では受け止めきれないくらい、宝物の詰まっている展示でした。
あー二ノ国のあとに、この予定入れておいて良かった…心が洗われたぜ…
最後の撮影ポイントも載せておきます。

あ、この展示で胸が一杯になり過ぎて、常設展には行ってません…
そちらも次回は観てきます!
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